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3/21 午前

朱雀は日が昇りきっても居ないその部屋で目が覚める。彼が考えるにこの部屋はおそらくアリクサルト家の一室だろう。


「外は…くらい…灯り…灯り…あぁ。作れば良いのか。」


朱雀は寝ていたベッドの上に座り込み懐中電灯を作る。創造系の魔法の力だ。


「ん?本だ!」


アレキサンダーがおいてくれたのだろうかその部屋にあるのはベッドと机と椅子。ただそれだけの空間だったはずの空間に本が何冊かおいてあった。朱雀は机に座ると懐中電灯を物理的な意味で消し、新たに灯りを作る。受け皿の上に大きな蝋燭、そこに火をつけると十分な明るさが確保できた。


「よおし!読むぞー」


なんせ趣味があまたある朱雀のことだもちろんメジャーな趣味の一つである読書が入っていないわけがない。しかし昨日の疲れのせいだろうか、朱雀はなかなか読み進めることが出来ないで居た。


日が昇ってきて所謂早朝と呼べる時間になった。この部屋に時計があることに気づき、朱雀は一度そちらを見る。六時前、まだ少し早いその時間、滅多に早起きをしない朱雀にとって、本来なら二度寝を開始していた時間だった。


(ああこれからどうすっかな。ノリと勢いであのこと話しちゃったし、試験だってやらかした。)


もちろん"あのこと"とは彼がこの世界へやってきたことであり、やらかしたというのは試験会場で意識を飛ばしてしまったことだ。


廊下のきしむ音が聞こえる。朱雀はその音が聞こえたと同時にその部屋の唯一の廊下に通じる出入り口へと歩き始めると、刹那その扉を開く。


「おはようございます。スザク様」

「おっおはよう。それより何で僕の名前を?」

「私、スザク様が寮に移るまでの間、専属のメイドをやるようにご主人様から仰せつかりました。」

「なるほど、てかもしかして起こしに来たの?」

「もしかして早すぎましたでしょうか?ご主人様様に遅すぎないようにと、釘を刺されましたので。」

「いや、そんなことはない。」

「それでは、朝食をおとりになりますか?」


朱雀はそのメイド、後から聞くとルルシルフと言う名前らしい、について行くと食堂へと通された。その部屋は全体的に木目調の家具と白い壁、豪華なシャンデリアで飾られていた。十五人掛けのテーブルと椅子があり、左右に七つ、そして上座に一つだ。きっとアレクサンダーの指定席だろう。


「あ、あの、ほかの人たちは?」

「それでしたら、皆様そろそろ起きてこられると思います。」


ドアから入って手前から右側二席目に座ると出された朝食、パンやベーコンを口に運こぶ。


(このベーコン旨い)


その時この部屋にある扉のうち廊下とを繋ぐ扉から一人の少女が入ってくる。


「おはよう。スザク。」

「エル。おはよう」

「お口に合うかしら?」

「ええ、とっても。」

「ルル、私にもくださる?」

「只今。」


エレーナは朱雀の向かいに座ると出されたパンをかじる、その時再びあのドアが開く。


「やぁ、おはよう、エル、スザク君。」

「ふはほう。」

「おっおはようございます!」


パンをかじりながらだったため良くは聞き取れなかったがおそらくエレーナはおはよう、と言ったのだろう。


「スザク君。お口に合うかね?」 

「お父様ったら、それはさっき私が聞いたわ。」

「ハハッそうか、そうか。ルル、私にも頼む」

「只今。」


アレキサンダーはやはり、指定席へと座る、


その後母親のカレンも来たが、似たような会話をしてその日の朝食は終わった。強いて言えばこの家では使用人とも同じテーブルを囲むということだろう。メイドが五人、執事二人、料理人が二人、計九人の使用人とともに朝食をとった、最も彼らが食べ出すのはアリクサルト家の人たちが食べ始めた後だが。


朱雀は朝食のあと話があるというので食堂に残り、コーヒーを飲んでいた。。


「それでだな、スザク君、君のスクールの合格は確実だからその後のことを話しておこう。」


その後約三十分にわたってアレキサンダーの個人授業が行われた。話を要約するとこうだ。朱雀がこれから通う学校は三年制で国営、魔法についてのことを中心的に学ぶが普通の歴史 数学、や地理なんかの授業もあるとのこと。



通常、クラスは八クラスあって一クラス十六人。要するに一学年128人だ。


この世界にも四季はあり、季節ごとの行事なんかもあるらしい。夏には対外試合が頻繁に行われるとか、ちなみに朱雀が入学する学校は三大校と呼ばれる最も歴史の長い学校のうちの一つらしい。他にも十数の同じ様式の学校がある。


それでは少なすぎるのではないか、と朱雀が聞いたところ、魔法は大抵遺伝で、ごくたまに自力で発現することもあるらしい。大体人口に占める割合は1〜2%だとか。そのうち優秀な能力を持つものが学校に入学してくるとか。


その他いろいろあったが朱雀の頭に入ったのはこの冒頭の四つの要素だけだった。もし最後まで聞いていれば後に驚くこともなかったろうに。


ーー今日は一日特に何もないからと言われ、適当に町の方に出ることにした。中世風の街並みに歩く騎士や商人、婦人に子供たち、まるでタイムスリップしたかのようなこの世界は現実なのだとあらためて朱雀は実感した。


その時ふと朱雀は横道にそれてみた。大通りから一本それただけなので人通りが少しまばらになった以外対した違いは無い。


「そこの、若いの。こっちへ来なさい。」


朱雀は一人の白髪の露天商に声をかけられる、小遣いだ。これからの生活に必要なものを揃えなさいと言われて朱雀は金貨十枚(朱雀はその価値をまだ知らない)をもっていたから何か買ってみるのも良いだろうと思い近寄る。


「お兄さん良い服を着ているね、どこかの大商人の息子さんかい?」

「そんなことはないです、ところでこれはいったいなんですか?」

「なにって…マジックアイテムだよ。場所によっては魔法具とも言うね。」

「へぇ、それって要するに何か特別な魔法とかが込められているとかそういう?」

「お兄ちゃん、なにもしらんだね、これは魔力があっても適性がない人や自分の持っている魔法に組み合わせてつかうだよ。」

「なるほど…このナイフは一体なんなのですか?」

 

そう言うと朱雀はいくつか並べてあるうちの中でとりわけ目立っている一つをとる。


「あんた、ナイフの扱いは知っているのかい?」

「えっええ。一応ですが。」


何を隠そう朱雀はナイフを頭の中や仮想世界で扱うことなら天才的なまでの能力を有しており、それはイメージトレーニングのようなもので、現実でもそれなりの練度となって現れる。


「そのナイフは意思を持っておるのじゃよ。」

「……何かの冗談ですか?」

「何を言っておる、本当なのじゃ。昔名のある匠死に際に自らの最高傑作の三降りの刃物をわざわざ買い戻し、溶かして作ったと言われておる。それくらいすごいナイフなのじゃぞ?」

「それと、これと何の関係が?そんなのよくある与太話ってやつでしょう?」

「じゃあ、おまえさんさっきなんでこのナイフをとったんだい?」


朱雀は考える、何故か、なんとなく?いや違う、色合いが綺麗だったから?いや違う……目が合った気がしたから?


「目が合った気がしたからです…」

「ほほう。さあ、買いな、一本ものだよここで見逃せば二度と見ることは無いよ?」


朱雀は悩んだ、こんな怪しい人物からナイフを買ってもいいのかと。それでも色合いは彼好みだった。


黒い持ち手に何か特別な金属を混ぜ込んでいるかのような変わった銀色をしたの絶妙な色の刃、刃渡りは30から25cm位だろうか。


よく見るとその刃には文字が書かれていた。それは見慣れない文字だった。


「なぁ、おっさん、これなんて書いてあるんだ?」

「これは…古代文字かのう。わしは長いことこやつを持っておるが気づかなかったのぉ。生憎わしは読めん。それで買うのか?買うならこのケースもつけるぞ?」


そう言いながら皮でできた形がそのナイフとぴったりのケースを見せてくる。


「いくら?」

「いくらもっちょる?」


だめだ。だめだ。だめだ。かもられる。


「金貨一枚」

「なに!そんなに持っておるのか?」

「金貨にそんな価値が…?ハッ!しまった!」

「本当はいくら持っておる?」

「五枚。」

「本当は?」

「金貨五枚」

「ほれ、早く本当のことをいわんかい。」

「わーったよ十枚だ。これ以上は本当にない。」

「ようじゃのう。」

「で、いくらだ?」


朱雀の頭をさっきの考えがよぎる。


(おわった。確実にかもられる、値段だけ聞いてさっさとここを去ろう武器なんて自分で作れば良いし…)


「なぁ、若いの良いことを教えてやろう。創造魔法の弱点はその脆さじゃ、特別に魔力が多いものでもない限り主戦力には向かんぞ?むしろ。お主にはちゃんとした武器があった方が良いと思うぞ?」

「なっなんでそんなことしってんだよ!」


朱雀は声を荒げる、そしてその露天商はこうつぶやく。

「なぁ〜に、昔占い師をやってたものでの。つい癖じゃ」

「ハァ、あんたには負けたよ。僕は買う、いくらだ?」

「金貨なら…ざっと千枚と言ったところかの?」

「何言ってんだじいさん、僕は十枚の金貨しかもってねーってんだろ?」

「しかたないの、出世払いで良い。おぬしとの出会いも縁じゃ。今日のところは金貨一枚で良いぞ。」


明らかに怪しいがそのことを気にせず朱雀はポケットから金貨を一枚取り出す。


「その時まで生きてろよ、じいさん」

「フハハ、なぁ〜に、わしはそんなに柔くないわい。」

「んじゃあ、その時まで。」

「ああ。ちゃんと払いに来いよ?」


そう言うと朱雀はその場を後にして昼食を取るためにいったん屋敷へと帰ろうとする。


二人はまだ知らなかった。彼らはそのうち、極々近い未来に再会することを。


ーーーー朱雀が去った約五分後、先ほどの路上


「ったく!何してんだよ!会合に遅れるぞ!」

「これこれ、年寄りは労るものじゃよ?そんなに引っ張っては死んでしまう。」 

「つうか、本当に遅れるぞ?」

「それはまずいの、ダニエルの雷が落ちたら、それこそ本当に危ないのぉ。」



ジェットコースターが上り始めるように物語は始まりに向かって動き出す……



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