3/20 午後
午後十二時三十分、朱雀は先ほどのエレーナとともにレストランの前へと来ていた。
「エレーナ!遅かったじゃないか!心配したぞ!」
「そうよ、エレーナ、次また送れたら従者をつけるからね?ところでそちらの方は?」
「も、申し遅れました!スザク=タカサキと申します!」
「スザクはねさっき私が変な人に絡まれているときに助けてくれたの。それでお礼に一緒にお昼ご飯でもどうかなって?」
「あら、そうだったの?私はてっきり彼氏かと…」
「もう!やめてよ!お母様!」
「まあまあ、やめなさい。ところでスザク君だったっけな、もしかして君は此処らに来たのは初めてかい?」
「はっはい!お父様?とよんでよろしのでしょうか、ええと、僕がここに来たのはたぶん今日が始めてだと思います。」
「たぶん、かまあその話はこれから聞くとして、私はこの港街の領主アレキサンダー=アリクサルトだ。こっちは妻のカレン=アリクサルト」
(領主…?領主?領主ってあのその街で大抵は一番偉いあの…?領主?え?ちょっ、え?)
その時朱雀の頭にあのメモのことがよぎる、左手に包まれていたそれを見ると。
(その四!最初に知り合った人間とは仲良くすべし!)
「アハハ…りょ領主様…アハハ…不躾な態度誠な申し訳ございませんでした。如何なる処分でも甘んじでも承ります。」
「ハハッ君は何を言っているんだい?気でも狂ったかい?むしろ私たちは感謝をしたいのだが。私のことは普通に名前で、いや、アレックスとでも呼んでくれたまえ。」
「で、でも…」
「領主命令だ。」
そう言いながらアレキサンダーは、はにかむ。
半ば強引に引きつられる形でレストランの中に入るとそこは絢爛豪華とも言うべきところでいろいろ凄すぎて朱雀の頭では処理しきれなかった。個室へと通されると、中華のようなテーブルで、上座にアレックスがその右にエレーナそしてその反対に朱雀がそして、アレックスの向かいに妻のカレン。
「い、いやあの、下座は、ぼ、僕が!」
「あらあら、スザク君はお客様よ?一応店員さんに見られるとあれだから夫はそれでこそ上座にすわっていますがあれも本当のところめんどくさがってるのよ、ねえ?あなた。」
「ああ、そうだな。ちとめんどくさい。景色が見たくても大抵上座の正面に窓はない。」
「でし、たら、ここで。」
「だから、そんなかしこまるなってよ!」
こんな調子で笑う百戦錬磨の傭兵のようなアレキサンダーと良妻賢母のようなカレン。
「それに正面に、ね?」
「もう!お母様ったら!」
(この人たちはいい人なのかも知れない…いっそのこと…話してしまった方が…取りあえずそれは食べてからで良いか!)
おいしそうな料理のにおいに朱雀の思考は邪魔された。
ーー皆が食後のデザートを食べていると朱雀が一言。
「あの、すみません、真面目な話をするんで聞いてもらえませんか?本当の話です。」
「いったいどうしたんだい急に改まって。」
「あのですね……」
朱雀は三人に自分のことを話した。初めこそ疑いの目を向けられていたがだめ押しに分身を作ってみせると、合点が行ったように納得してくれた。なんでもこの年で分身を作れるなんて神童やそこらの言葉じゃあ表せられないらしい。
「そうか…ということは、君はこの世界のことを何も知らない、若しくはほとんど知らない、そういうことかね?」
「はい。知ってるのは必要最低限の魔法の知識だけです。」
「なあ、カレン、スザク君も一緒にどうだろうか?本人さえよければ。」
「ええ、それが良いわね。試験は間違いなく合格でしょうし。ねぇ、スザク君、魔法学校に行きたくない?」
魔法学校…おそらく魔法を専門に学ぶ教育機関やそこら、それに、学校なのだからほかのことも教えてくれるだろう。地理や歴史も学べれば御の字だ。
「いや、でも、僕、その…」
「学費なら気にしなくて良いわ。」
「一時的とは言え、建て替えてもらうなんてと、とても…」
「あら?何を言ってるの?お金かからないわよ?」
「え?」
「特待生よ特待生。入学試験で三位までに入れば学内でかかるお金は全部ただ、しかも、特別に月に金貨五枚も貰えるのよ?特別給付金として。」
(魅力しかない…)
朱雀はまたあのメモを見る。
(その五!欲望には忠実に!か…なんだこれは、シナリオ通りなのか…?)
「是非とも行かせていただきます!」
「よかったわね、あなた。」
「ああ、そうだ、この後も学校が始まるまではうちに来ると良い、部屋ならある、気にするな。」
「ええ、スザク、是非とも来てください、お礼にクッキーでも焼いて差し上げますわ。」
「それじゃあ、またお言葉に甘えて…」
「それじゃあ行きましょうか?」
「ああ。そうだな。そろそろだな。」
個室の掛け時計は午後二時をさしていた。
ーーーーー「まさか、今から試験を?」
「ああ、そのまさかだ。一応私は領主だからな、時間は別枠だ。本来は朝からだから今はもう君たち二人だけだ。」
「てっきり僕は家に帰るのだと…」
「ちょっとついてきてくれスザク君。エル」
「はっはい!」「はい。」
そういわれて、スザクがついていくとそこは小さな部屋だった。机とそれを挟んで二脚ずつの計四脚の椅子。
一人の初老の男が入ってくる
「あーすまないな、リガルド」
「気にするな。レックス、それでこの子が…」
「それじゃあ、あとでな、」
「ああ。」
そういうと風のように去っていった。この人が誰なのかを聞くことも出来ずただただ見ているだけの朱雀だった。
「よし、それじゃあ、行くぞ。エル」
「あの、僕は?」
「ああ、試験場には一人の受験者しかはいれんのだ。」
「あっはい!」
「んじゃ!エル!適当にかましてこい!」
「はい、お父様。」
エルが先ほどの初老が入ってきた扉を開いて十数秒後、その場には爆音が鳴り響く。台風みたいなそんな感じ。
「今のは…?」
「エルの魔法だ。」
「……魔法って見かけによらないんですね。」
「ハハッ言うなぁ!さあ、次は君の番だ。」
「はっはい!」
ーー「あーそれじゃあ、トオル=タサカキ君、君の出せる全力を出してくれ、何か必要なものがあったら取り揃えるが何かいるかね?」
「いえ、平気です」
「それじゃあ、頼むぞ。この瞬間から全てが採点対象じゃ。」
(全力ってどうやるんだろう。とりあえず、だせるだけ分身をだしてみるしかない)
そこに十二体の分身が現れた、朱雀の頭から割れそうに痛む。
(やべえ。)
彼は数をその半分にまで減らしそれぞれを操る、はじめはぎこちなかったがすぐに上手くなり、最後に二体だけ残して突然殺陣を始めた。しかも超高速で。
だが調子に乗りすぎた、次々と再び分身を増やしていくうち七体目で力尽きその場に倒れ込む……彼が目覚めたのは日付の変わってからだった。