3/20 午前
体の力がふっと消えたと思うと突然目の前が明るくなる、それと同時に尻餅をつき路地裏であろう暗い地面へと落ちる。
「ったく、もっとましな場所にさぁ。」
四方を見回す、壁、壁、道、壁。行き先は決まった。
その道を左に曲がった直後今日一のアンラッキーと対面する。男数人が女の子を囲んでいた。
「うそぉ。」
小さい声でそうささやく、なんせその人たちの前を通れば大通りであろうあの道に出られる、しかしただでは通してもらえない、どうする…。そう朱雀が考えているといつもの癖でポケットに手を突っ込もうとする。するとあるべき場所にあるべきものがない。服装が替わっていたのだ。
白いワイシャツのようなものに、茶色いジャケット、黒いズボンを履いていて靴は、まあ、ブーツてっやつか?茶色い感じのよく中世っぽいあれだ。正確には全身中世だ。
ようやく見つけたズボンのポケットに手を突っ込む、すると一枚の紙切れが手に当たる。それを手に取ると
(神様からの…助言その一?女の子は助けるに越したことはない。その二、魔法は何となくで使えるから頑張れ。)
タイミングが良すぎることを気にしながら朱雀は試しにさっきの情報の一番最後の方に書いてあった複合的魔法の分身を作ってみることにした。後ろを向き五歩元いた場所側にの近くに戻る。
(なんとなくってなんだよ。雰囲気ってやつか?えーと、えーと。えーと…!できた!)
そこには朱雀と瓜二つのまるで目の前に鏡があるかのような少年が居た。今度はそれを操作系の魔法で動かす。実際のところ人間の動きに近く、さらにこんなに大きなものを動かすのは並の奴には出来ない。
(うごいた!いける!そうだ!ナイフを持たせて…)
「よし!これでいける!」
そう小さな声で言いながら、これまた小さくガッツポーズをする。彼のあまたある趣味の一つにFPSというのがあった。これは要するに一人称視点での銃の打ち合いだ。
さらに彼はナイフの扱いもかなりのもので極希に銃よりナイフで倒した敵の数が多かったりもする。そんな彼にとって分身を一体操ることくらいどうってことはない。
最も今の彼の頭の中にはその分身の視界が写っている、一度に一体分しか見れないのが弱点だが。
「しゃあ!」
そう自らを鼓舞するような声を出すと、分身だけを男たちに近づける。
「おい、屑ども、その女の子を離せ」
分身が声を出すことはとても簡単なことだったのでむしろ、朱雀は驚いた。
「あん?ガキが!殺すぞ!」
その声とともに振り上げられる拳、よく見るとそこには四人の男が居て、こいつはその中で一番がたいがいい。
ゲームよりも身軽かつ自由に動く分身を振り上げられた右の腕とは反対側に移動し、完全に意識がいってないひだりの腕の付け根を刺す。
「フッ雑魚が」
つい口から声が出る、これは彼のナイフキルの時の口癖のようなもので相手を倒した瞬間反射的にでる言葉だった。
案の定その瞬間その男は痛みと出血に耐えきれずしばしの間体が硬直する、そこを朱雀は見逃すことなく、間髪入れずに第二の攻撃を仕掛ける、ナイフに対して注がれるその視線と集中を逆手にとり、一メートルはあったその間合いを一気につめ、顎を蹴り上げる、それと同時に分身の体も倒れるが相手の男も倒れる。
「あっ!兄貴!大丈夫でやんすか!」
「うっせー雑魚。」
そういうと右の手にもつナイフを一直線に投げつける、左の腕に刺さることをその取り巻きが視認するとと同時に悲鳴を上げ泡を吹いて倒れ込む。
「ヒッ!ひぃいい!」
残る男の内の一人は尻餅をついてガクガクと震えている、最後の一人をどうするか一瞬悩んで居ると、またあのメモが目に入る。
(その三、魔法使いは大体全人口の一割くらいだよ!やばい奴らが四人もいればそのうち一人くらい居てもおかしくはないよ。)
こいつ、見てるのか?いや見てるんだったか。そんなことを思い出しながら朱雀はこの男が魔法使いであることを確信する。
男の右の手には赤く燃え上がるものが見てとれる、どうやら、炎系の魔法使いのようだ。
朱雀は自分の居る場所に向かって分身を走らせる、そして曲がり角にさしかかった頃先ほどの魔法使いもこちらに走ってくる、そこを利用して落とし穴を作る、仕組みは単純だ。地中に何もない空間をつくるだけ、それも地面すれすれに、そうすることで踏んだら即落ちる落とし穴ができあがる。
なぜこやつに落とし穴が有効かと言うと、普通に正面から戦ったらこんな狭い路地じゃリーチの長くて戦闘経験も長いだろう火の魔法使いが有利だ。だから、相手には此方が逃げたように見せかけて逃げる、普通の属性魔法使いは投げた火を直角になんて曲げられないので必然的に追いかけてくる必要がある。そこで、先ほど分身が通った直後に作られた落とし穴の上を何も考えずに走ってくる。あとは落ちた後にその穴を塞ぐだけ。
まあ、ある程度離れれば消えるだろうし大丈夫だろう。
「にげんじ…ウォォ」
(雑魚が。)
まさしくドンピシャリその男は見事に落とし穴へとはまった。朱雀は穴を塞ぎ人が通れる程度の硬度にするとその上を通り。先ほどの少女の元へと向かう。
「大丈夫でしたか?お嬢さん?」
「えっええ…おかげで…ありがとう助かったわ…」
「ああその、震えてるんですが、いかがなさいました?」
「だっ、大丈夫よ!」
「強がらないでください、今、横に思いっきり振る前に、一瞬首を縦に振りました、僅かな時間ですがそれはマイクロジェスチャー及ばれる行動です。つまりあなたは大丈夫ではない。」
「なっ、なんでわかったの…?」
「趣味ですから。」
その地毛であろう金髪に白いドレスだろうか、そんなものを身にまとう少女の話を聞くとこうだ、このあたりでは有数のお嬢様でそれを知った輩が声をかけてきた、そして体を触られて恐怖で声もです絶望したところに朱雀が現れた。
「お昼まだでしたら、お礼に一緒にいかがですか?」
「よろしんですか?」
「ええ、もちろんですとも。」
「では、お言葉に甘えて。それより自己紹介がまだでしたね、僕はスザク=タカサキ」
「あら、ごめんなさい、わたくしはエレーナ=アリクサルトですわ。エルとお呼びください。それでは行きましょう、スザク様。」
「様だなんて…」
朱雀は知らなかった、この女の子がいかに凄い人物であるかを。
ーー