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098. 町の外

アトは手紙を読み終わって、まず、こう思った。


ツォルセティーナ。

なんて、変わった名前なんだろう。


初めて聞く名前だ。

それなのに、外の町では、普通に使われている名前みたいだ。



そういえば、とアトは思った。

物知り博士のオクロドウさんも、変わった名前だなと思ったんだった。

でも、外の町では普通の名前なのかもしれない。


オクロドウさんは、町の外から、『霧の研究がしたい』といってやってきた女性だ。もう5・6年は経つ。


見た目がちょっと変わっていて、暗いグレーのドレスのような服を何着も持っていて、いつもそれを着ている。

やせていて背が高く、大きな黒ブチの丸メガネをかけている。

ちなみに、背は父より高い。居城ではデルボが一番背が高いが、次がオクロドウさんだ。


年齢については、暗い服の印象のせいで、アトにはさっぱり分からない。父と同じぐらいのような気もするし、しかし実は結構若くて20代ぐらいなのかもしれない。

しかし、女性の年齢をたしかめるようなことをしてはいけないらしい。


色の明るいドレスをきて、メガネを変えたら美人なのじゃないかなぁ、と、学校の皆に言ったことがある。が、霧の研究が本当に好きらしく、オクロドウさんの部屋となった『霧の観察部屋』から、さっぱり外に出てこないので、居城に暮らすアトはまだしも、町の皆はさっぱりオクロドウさんの顔を拝んだ事がないのである。



「・・・・」


床の上で、手紙を義手の指にはさんだまま、アトはちょっと天井を見て物思いにふけった。

『町の外』というのについて、考えてみたのだ。


アトには、町の外に行った記憶が一つもない。

それはアトだけではなく、きっと学校の友達もそうだろうし、町の人たちも外に行ってくるなんて聞いたことがなかった。


町の外に、特に行く必要がなかった。



町の外については、学校で習う。

このイシュデンが、大陸の北西付近にあるという非常に大まかな地理。


そして、それを遥かに上回る、自分たちが暮らす、イシュデンについての授業。

地理。歴史。動植物。天候。工芸。音楽。文法。作法。算術・・・

それだけ、対するイシュデンという領地が豊かだからだろう。



「・・・・」


と、思ってはいたが。


アトは、昨日、石見の塔の老婆に言われた言葉を思い出していた。


 『あなたは世界を救うだろう。旅だちなさい、今すぐに』


そういわれて、自分は、領主になる身だから、外の町を見て勉強してこいってこと? なんて思って、でも何か自分がそんな気分にもなっていないのに行くのは嫌だな、なんて思っていたんだけど。


「・・・町の外・・・」


ポツリと、アトは呟いた。


一体、町の外は、どんなところなんだろうか。


食べているものも違うみたいだし、使っているお金も全然違っていた。名前だって違う。というより、言葉が全く通じない、別の言葉を話しているのが信じられなかった。


もしかして、もう、ほとんど全てのことを、僕は知らないんじゃないだろうか。


そう、領主になるんだったら、もっと知った方がいい事が、あるに違いない・・・。


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