097. 小箱の中身、手紙の内容
アトは、今まさに、父からの手紙と小箱を開けようとしていた。
手紙と小箱は大変気になっていたのだが、義手がなくては開けられなかったし、待っている間に空腹の方がひどくなっていた。
メチルが、義手を取りに行きつけてくれる間に、マチルダさんが来て食卓を整えてくれた。だから、先に食べる事にした。
ちなみに、『食事中に手紙を読んだり小箱を開けたりしても良い』なんてマナーは教えられていないため、気になるとはいえ小箱と手紙は後回しだ。
そして今。
片付けの邪魔にならないように隣の談話室に移ったアトは、床の上にクッションを置いてあぐらをかいて座りこんだ。
手紙と小箱。どちらを先にあけよう。
小箱からの方が、すぐに手紙も開けられると思って、先に小箱から開ける事にした。
渡された小箱は、簡単な留め金がついている。
ひっかけて前に倒せば外れるので、アトは容易に留め金を外した。
きちんと蓋をあけるのが面倒くさかったので、両足で箱を固定し、義手の「腕」部分を使って押し開けるようにその蓋を開けた。
空けた瞬間、フワリと木の匂いがした。
「・・・・・」
中に入っていたのは、木彫りのようだ。
なんだろう、丸く彫られている・・・?
それに、香りからして、ひどく最近作られたものだろう。
このままでは全体が分からないので、座っているクッションの上で箱をひっくりかえした。
中身を落として取り出してみると、それは小さな木彫りの、胸像だった。
丸く見えたのは、頭部の部分を上から見たからだ。
アトはそれを見つめた。
とてもキレイに彫られていた。
どこか頼りなさげな表情の・・・男の子にも見えるが、女の子にも見える。
誰の姿だろう?
きちんと義手の「指」を固定してから、持ち上げて見つめてみる。
「・・・・・」
もしかして、居なくなった、商人の子だろうか。
誰が彫ったんだろう。
昨日、広場で遠くにチラっと見たその子の顔を思い出そうとしたが、昨日みた時は遠くて暗くて、表情もよく分かっていない。
とはいえ、こういう顔をしていたのかもしれない。
もう一度見つめる。とても淋しそうな顔にしている。
なんだか、どこかへ消えてしまいそうな表情で、アトは胸にため息がつまるような気持ちがした。
こんな表情をして、実際、どこかへ消えてしまったんだろうか。
一旦その胸像を床に置いて、今度は手紙を開けることにした。
簡単に開くように配慮して留めてある封を開ける。
父からの手紙だ。
**************
息子 アトロスへ
突然色々あって驚き疲れているだろうと思う。
まず休んで体力を戻すように努めなさい。
その上でアトロスに頼む事がある。
行方不明の来客のことだ。
イシュデンの中を皆で探すが、恐らくは領地内にはいないだろう。
アトロスが探しに行く場所に、居る可能性が最も高い。
アトロスはあまり物事に動じない性格だが、さすがに混乱してはいないだろうか。
アトロスは昨日は運命の日であり、そして母にも会い、そして、変わった場所に行き、戻ってきた。
なお、父の私情だが、アトロスが戻ってきて安堵した。
あの場所について、色々と父に聞きたいと思っていることだろう。
いずれ話すことがあるだろうが、
まず今、アトロスに頼みたい事は、行方不明の子どもを探し出す事だ。
世の中は、見えるものだけで作られているのではない。
見えないものからも作られている。
その一つが、アトロスが昨日、今日の早朝に行ってきた場所だ。
いつもより少し早く、夕食のために食堂に来なさい。
食堂でなく、2Fの運搬室で待っていなさい。
そこから母の部屋に連れて行くから、アトロスには、また昨日の場所に行って、探してもらいたい。
そのためにも、それまでに体を休めておきなさい。
この手紙と共に、アトロスには小箱を渡す。
箱の中には、探す子の姿を映した像が入っている。
クリスティンが彫った像だ。客人が言うには、生き写しとの事だ。その像を頼りに探しなさい。
それから、あの場所では「名前」が、我々が思う以上に特別な力を持っている。
行方不明の子どもの名前は、イシュデンでは「ダロン」としていたようだが、本当は
「ツォルセティーナ」という名前だ。
外の町では、豊穣の娘、という意味の、よく愛されて使われる名前だ。
アトロスと同じぐらいの年齢の女の子だ。背はアトロスよりやや低いかもしれず、ほぼ同じぐらいのようだ。
では、夕食前に、運搬室に。
父 イシュデン=トータロス=イングス
**************




