095. 水の中
セフィリアオンデスは、落下した。
とたん、冷たさが全身をつつみこむ。
おかげで、床に直撃した痛みが、冷たさに塗り替えられた。痛いのと寒いのとどちらが良いかと問われれば、寒い方がセフィリアオンデスにとってはまだマシだ。
セフィリアオンデスは目をしっかり開けて、水中を見た。
暗い。薄暗い。周りを見回す。
何も見えない。
あのコはどこだ? もうここには居ないのだろうか。
両手両足で、もがくように動いてみる。
いないのか・・・?
「お ---- い・・・」
ガボッっと冷たい塊をまた飲み込む。
クルシイ デモ ・・・
グィ 左腕を、持ち上げられた。
はっとセフィリアオンデスが上を見た。
淡々とした表情で、トートセンクが翼を広げて空中に浮いていた。
「居たのか」
はぁ、と、セフィリアオンデスは呼吸した。
「ぃや、居なかった。。。 ありがと、トートセンク」
なんだかんだ言いながら、自分の体が再び床に現れた後、再び落ちないよう、トートセンクが左腕を掴んで床から持ち上げてくれたのだ。
「一度。これで終わりだ」
トートセンクは淡々と告げた。
セフィリアオンデスの体から、力が抜けた。「・・・そうだね」
やはり、自分が見たのは幻だったのだろうか。何十回と落ちて、たった一度しか見なかったし。
それに、トートセンクの協力なしでは、あの「水」の世界の探索は不可能だろう。
「あのさぁ・・・」
片腕だけひっぱられて宙に浮きながら、それでもセフィリアオンデスはトートセンクに頼んでいた。
「取引とかじゃなくって、単に、オネガイ言わせてよ。
もし、迷子が居たら、そのコにさ、『クリスティンが心配してるよ、早く帰りなよ』って言ってやってよ」
トートセンクは、首をかしげたが、なぜだかフと笑った。
「お前に言われずとも、私はそう告げるだろう。
セフィリアオンデス。お前も、自分の世界に戻るがいい」
・・・・そうだね。
トートセンクは知らない。
自分は、あの、第三世界の住人たちとは事情が違うということを。
自分を送りだしたのは自分の世界―鉱石世界―だが、この体は、そのためにこの第五世界で生み出されたものだということを。
ふと心配になった。
自分のエネルギーが尽きるとき。
この体は、第五世界に置いていくことになるだろう。
この一人残された有翼人種にとって、自分のヌケガラが、より孤独を感じさせるものにならなければよいが。
いやまぁ、でも、大丈夫そうな気もするケド・・・
ヌケガラが1つ、増えるだけだもんな・・・
「・・・・」
私もどこか麻痺してない?コレ。とセフィリアオンデスは思った。
まるでぶらさげるようにセフィリアオンデスの左腕をつかんだまま、トートセンクが羽ばたいた。
スミカの壁を抜ける。
入ってきたときと同じように、全身にガスの層を抜けるような圧迫がかかった。
スミカの外。白い大地・・・。
セフィリアオンデスを大地に置く。
降ろしてもらったことに、お礼の言葉がセフィリアオンデスの口をつく。
「あ、ども・・・・」
ふと一瞥だけして、もう何も応えず、トートセンクは身を翻した。
ふわと宙に舞い、そのまま、再びスミカの壁を通って、スミカの中へと帰っていった。
スミカの外。残されたセフィリアオンデスは、白いふわふわとした壁をぼんやりと見上げた。
届くかなぁ・・・・。
珍しく弱気になっていた。
アンタの世界の枠、なんか、相当、強固そうだよ・・・。




