092. お茶
セフィリアオンデスは、ゆるやかに目を覚ました。
ぼんやり目を開けると、自分を遠くから・・・どうも見下げられている感じで、あの有翼人種が目の前にいるのが分かった。
えーと・・・
相当の体力を約束されているこの体。そのはずだが、力が入らない。
視界さえ、なんだかぼんやり霞んで見える。
・・・・・・。よかった、生きてる、私・・・・。
らしくなく、ボー・・・・っとしているセフィリアオンデスに、有翼人種トートセンクが声をかけた。
「『茶』だ。飲め」
・・・・。
セフィリアオンデスはぼんやり、有翼人種が自分になんだか淡く光るものを差しだすのを見ていた。
茶・・・?
あぁ、お茶・・・。
セフィリアオンデスはそれを受け取ろうとしたが、体がうまく動かない。
どうやら、仰向けに寝ているようだ。
有翼人種がため息をついたのが分かった。
有翼人種が自分の傍に膝をついて、その左手で自分の左首根っこをワシっと掴んだ。
あ゛あ!?
セフィリアオンデスの負けん気が顔を出した。
アンタ、ゲストにその扱い方はどうなの!?
案の定、首根っこをガッシリ掴んだ有翼人種は、そのままセフィリアオンデスの上半身をグィと起こした。
オイ!
首根っこを掴まれて支えられたまま、セフィリアオンデスは、グィ、とまた光るものを差しだされた。
「飲め。『茶』だ」
・・・・。
体力がないながらも扱いに非常に腹が立ったが、とにかく、差しだされたものは飲もうと思う。
セフィリアオンデスは、ようやく腕を動かして、その光るものを、持とうとした。
力が入らず、時間がかかるが、有翼人種はじっとただ待っていた。
セフィリアオンデスの両手の中に、淡い光が宙に浮かんでいる。
「これ・・・何?」
「お前が所望しただろう。我々が口にするエネルギーだ」
なるほど。
「どう飲んだら良いワケ・・?」
有翼人種が、バカかお前、と、ストレートに顔に出した。「そのままいただけば良い」
・・・。
突っ込みたいが、今、色々とセフィリアオンデスには余力が無かった。
良く分からないなりに、『茶』として出てきたからには、口から飲んでみようと思った。
両手の光に、顔を近づけ、唇を当てた。
ホワ・・・
「!」
すっと、体にエネルギーが流れてくるのが分かった。
まるで、光そのものが意志を持っていて、セフィリアオンデスに力を与えようと、自らセフィリアオンデスの体内に流れてきてくれたような親しみやすい感覚が体を通った。
新しい力で体が満たされていく。
空になった両手を、セフィリアオンデスが驚きをもって見つめている中、有翼人種トートセンクは、支えていた左手をセフィリアオンデスの首根っこから外した。
そして、立ち上がる。
その動きにセフィリアオンデスが顔を上げ、トートセンクを見上げた。
トートセンクは立ち上がっていて、セフィリアオンデスは足元で、足を投げ出して座っている形だ。
トートセンクは、背中の羽で、宙に浮かんだ。
「立ち去れ、セフィリアオンデス」
セフィリアオンデスは不覚にもキョトンとしてしまった。
「お前との取引―青い宝石との交換条件は、これですべて満たした。
立ち去れ、セフィリアオンデス」
そうだった。
セフィリアオンデスは、思い出した。そうだ。「茶」を飲ませろと言った。そこで終わりだ。
だが、まさかこんな茶の振舞われ方をするとは予想しなかった。
もうちょっと、なんというか・・・。
ここまで来たのに、こんな状態で終われない。
さきほど幻を見たことで、余計に、自分がここに来た意味と果たすべき目的を強く意識した。
「待ちなさい、アンタ!」
『茶』は、想像以上にセフィリアオンデスの体に活力を取り戻させていた。
ゆるゆると立ち上がって、セフィリアオンデスは、すでに自分を見つめながら上に移動して行っている有翼人種を睨むように見つめる。
「聞きたいんだけど! アンタ、名前なんて言うの!?」
ちなみに、セフィリアオンデスの方は、有翼人種に会ったそうそう、自分から名乗ってやっていた。
挑むように名前を聞かれた有翼人種は、不快そうに迷惑そうに顔をしかめた。
そのまま、もう身をひるがえして立ち去ろうとすらした。
が、身をひるがえしかけて、その動きを止めた。またセフィリアオンデスの方に顔を向け、もう随分と上空から、セフィリアオンデスの呼び掛けに応えた。
「スミカが正しく機能していると分かった礼として、我が名を伝えよう。
我が名はトートセンク」
トートセンク。
セフィリアオンデスが見上げる中、名前を告げたのを最後、有翼人種トートセンクは、今度こそ身をひるがえして、このスミカの上方へとその背中の翼で渡っていった。




