090. ミズノナカ
セフィリアオンデスはさすがに消耗しきっていた。
落下と浮上がもう何十回繰り返されただろうか。もしかして百回を超えた可能性だってある。
またも自分の体が冷たい感触の中に放り出され、かつ、息ができなくなり・・・
セフィリアオンデスの意識はフゥと遠のいた。
待って・・・まだ あと 2日・・・ ・・ ・・・ ・・・ ・ ・ ・
セフィリアオンデース!!!!!
まるで5つの耳を全て防がれたような、どこかぼんやりとした遠くから、自分の名を呼ぶ声がした。
セフィリアオンデスは瞼を開ける。
あぁ ここは・・・
どこかぼやけたような視界に、赤茶色に煌めく美しい天が見える。
自分は、金も内包した水晶―ルチル水晶の大きな結晶の上に、あぐらをかいて座っていた。
「セフィリアオンデス、お帰り!」
どこかにじむような光景なのは、どうしてだろう?
仲間の姿がぼやけてよく見えない。けれど、輪郭が見えて、そこに仲間が居て、自分に向かって話しかけているのが分かる。
「長い旅をお疲れさまでした、セフィリアオンデス!」
「よくやってくれたね、セフィリアオンデス!」
「これで世界が救われたね!」
ぼんやりした仲間の手が、自分の頭をぼんやりと撫でる。
「お帰り、セフィリアオンデス!」
世界の全てが自分の帰還と、自分の達成してきた事柄を喜んでいた。
セフィリアオンデスは口を開こうとした。
待って・・・・目的は、達していない・・・・
待って・・・待って・・・・
まだ・・・成し遂げていない・・・
なのに、口が動かない。
「セフィリアオンデスの勇気を皆でたたえてー!!!」
ワァ・・・・と、世界中の空気が喜びに充ち溢れる。
待って・・・・・
言わなくては。言わないと。
そう、
そうだ。
そうだ。
そう、まだ何も。何も、果たしていない!!!!
あれほど長い年月準備をして やっと果たせた機会だったのに!!!
ザァっと、セフィリアオンデスの体を後悔が駆け抜けた。
何も果たさずに 戻ってしまった!!!!
セフィリアオンデスの脳裏に、遠い世界で何を行い、何が果たせなかったかが蘇る。
自分は、有翼人種のスミカに行き、救けを求めていた『第五世界の鉱石の王』に会うことができた。
そこで、第五世界の地図と歴史を伝えてもらった。
けれど、そこで、終わり。そこで終わりだ。
腹立たしさに襲われる。自分に対して腹が立つ。
自分のこの世界が、遠い世界に人を送り込む。それにはどれほどの長い年月が必要だったか。
遠い世界からずっと響く助けを求める声に、この世界の皆が、心を痛め、なんとか助けたいと思い- 皆が助けようと、真剣に願い、願い、願い・・・・その結晶として、遠い世界にセフィリアオンデスという存在を産み落とした。
それなのに。
またこの世界が、あの遠い世界に思いを形にして送るには、また改めて長い長い年月を必要としなくてはならない。
またアイツを見つけ出し、そしてスミカへ辿り着き・・・自分と同じ道筋を、また始めから辿らなくてはならないだろう。
あそこまで、行ったのに!!!!
セフィリアオンデスは、悔しくて腹立たしくて涙しそうになった。
「セフィリアオンデス、バンザーイ!!!!」
「救世主ー!!!!」
待って、違うよ、皆。
違うよ、まだ、助けがいるんだ!!!
初めから、また、送る必要があるんだよ!!!!
待って、待って、待って・・・・!!!
バンザーイ、バンザーイ・・・・
ぼんやりとした声がこだまする。妙に狂ったその音に酔いそうになる。
違う あと2日はあったのに・・・
落下と浮上の繰り返しで、残る2日分のエネルギーを消耗しきってしまったのだろうか・・・
情けない
なんて
情けない
「セフィリアオンデス、バンザーイ!!!!」
違う、待って!
まだ終わってないんだ!!! 始まってないんだ!!!
私の口、動け!!!!
セフィリアオンデスは、口を動かそうとした。ひどく動かしづらい。自分の体なのに、思うように動かない。
それでも、必死に声を出そうとした。
「ま っ て !!!!」
ゴポッ・・・・!!
体の中に、冷たい感触が大きな塊で入ってきて、ショックでセフィリアオンデスは目を開いた。
とたん、苦しさが襲う。息ができない!
なに!?
だが瞬時に、今先ほどの「帰還」は意識が朦朧とした自分の幻覚か何かだったと気付いた。
今、またも溺れているこの状況が現実だった。
だが、苦しい!
ダメだ、本気で死ぬ・・・!!
ダメだ、まだ死ねない!!!
また意識が遠のきかける。
クンッ
と。左手を、掴まれた。
遠のく意識の中、セフィリアオンデスはそれを見た。
自分の腕をつかんだその人を。
それはこの冷たい水の中、冷たさなど全く分かっていない様子で 長い髪をゆらめかせて
白い肌に 大きな茶色がかった大きな瞳で
不思議そうに 少し心配したように・・・?
少 女 だ
あ
クリスティン・・・・・・・・・・・・探してるコ、このこ、かな・・・ぁ・・・・・・・・・・
セフィリアオンデスの意識は遠のいた。




