088. 寝過ぎ
アトはダラダラと目を覚ました。
「・・・・」
妙な時間に寝てしまったからか、体が異様にだるかった。
「・・・・」
喉が渇いていて、空腹だった。
アトはゆるゆると起き上がった。
窓の外を見る。
薄暗く、薄明るかった。
・・・まさか、丸一日寝ていて、次の日になってしまった・・・?
父に言われて着替えに来て、無理せず眠れという伝言を聞いたら眠気に気付き、
では少しだけ・・・とベッドに入ったのだが、
どれほど寝たのかさっぱり分からないぐらい寝入ってしまった気がする。
アトは、自分の身なりをみた。
外出用の衣服がしわくちゃになっていた。
着替えず寝巻のままでいればよかった・・・。
「・・・・」
いつものくせで、起床後まず、メチルを呼ぶ呼び鈴を鳴らした。
鳴らしてから、あ、しまった、とこれまたぼんやりと思う。
しわくちゃとはいえ、もう自分は外出用の衣類に着替えていたから、着替えの必要はないんだ・・・。
「アトさま―。おはよーございますー!」
アトの返事を待って、メチルが部屋に入ってきた。
アトの顔をみるなり、驚いて、そして笑われた。「アト様、まだまだ眠たそうですね!」
「おはよう・・・・・・今日は何日? もう朝なの?」
「え? ・・・ 11日ですよ? もう夕方です。おなか減ってらっしゃいませんか?」
11日ということは、まだ「今日」だった。863年7月11日 夕方。翌日になっていなくて、アトはほっとした。
どうやら寝ていたのは5・6時間のようだ。
空腹を抱えつつ、アトはぼんやりした頭を回そうとつとめた。
「えーと・・・・父上は・・・食堂に?」
「いえ、城にはおられますけど、食堂にはおられないと思います。
これ、アトさまにって、イングス様からお預かりしてます」
メチルが、まだまだぼんやりしているアトに、持ってきていた小箱と手紙を見せた。
「それから、今、町で、あの商人さんの娘さんを探してます。
父が言うには、ロバートさんのお家にいって、それから、いなくなってしまったって。
でも、濃霧で外への扉は閉まってる時間だったみたいで・・・。
町の建物の中にはいるはずですよね・・・。
どこに行かれたんでしょうね・・・。もう見つかったかなぁ・・・」
「そっか・・・」
「あ! お食事、食堂でご用意しますよ。食べますよね? こちらも食堂に持って行って良いですか?」
こちら、とは、手紙と小箱のことだ。
「うん。ありがとう」
メチルに先導され、自室を出て、廊下を右に進む。
二つ目の扉をあけると、食堂へ続く団欒室がある。
その団欒室から、食堂へ入る。
あ そうだ。
アトの脳みそはようやく思い出した。
運搬室のこと。食堂が見える方向とは別にあった、あるはずのない扉。降りた秘密の階段。
ホールの騒ぎ。
そうだ
「知る人」の集まる朝食の席
しまった
寝てしまって、結局参加できていない!
いや
待って もしかして
・・・父はそれも見越してそのように朝食の席を分けたんだろうか・・・?
食堂のいつもの席に座り、アトは、メチルがまず置いて行ってくれた手紙と小箱を見た。
手紙とその小箱には 何が詰まっているのだろう
「あ」
しまった
「メチルーごめん!」
アトは立ち上がって、メチルのいるはずの運搬室に向かった。
「どうしました?」
やはりメチルはそこにいた。
「僕、義手をつけてなかった」
「あ。そうでした・・・取ってきますね!」
会話の中、アトはメチルの背後となる壁を確認していた。
今日の朝、父が開いてみせた秘密の扉があった場所。
そこは、やはり扉などなかった。
その壁は、『いつ何時も私は壁以外の何物にはなりません』とでもいうような顔をしていた。




