表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/475

087. 司書 マーゼ

マーゼはミト師よりも老人で、だが静かに健康で、昔からずっとこの館の司書をしている。

図書室の出入り口にあるカウンターの中に座って、ときどき、レース編みをしていたりする。

細い金色の丸メガネをかけた上品な老婦人だ。



(見つかった!)

アルパッサは焦った。


 

マーゼは悲しげに、アルパッサを、その丸メガネの奥から小さな細い眼で見詰めていた。


明らかに動揺を隠せないアルパッサに、マーゼは静かにゆっくりと人差し指を口にあてた。(静かに)


 

緊張で体が震えそうになるアルパッサの横で、マーゼはゆっくりと図書室を眺めた。


図書室には数人利用者が居たが、皆、明るい、出入り口に近い方の席に座っていた。


 

マーゼは、アルパッサにそっと顔を近づけた。

「昨日、プラム様の声を聞いたの。すごい声だったわ・・・」


 

マーゼはそれから、アルパッサが身を乗り出して読んでいた本に目を落とし、それからアルパッサを静かにゆっくり見た。

「ミト師も声を聞かれたのね・・・。

 あなたは祭壇の事を?」


 

見つかったショックで、アルパッサは思わず首を横に振っていた。


 

マーゼは静かに肩をすくめて見せ、静かに息を溜息のように吐いた。

マーゼはゆっくりと、まだ開かれたままの日記の文字をなぞった。

そこは塗りつぶされている部分だった。


 

「・・・・」


マーゼはしばらくそのまま黙っていたが、静かに口を開いた。

小さな涙声だった。


 

「プラム様を助けてあげてください。私もミト師のお力になりたいわ・・・。


 ずっと長くご病気でね・・・

 この町は観光客が多いでしょ。

 町の人たちにも、来る人たちにも、病を広めてはいけないでしょ。

 お屋敷にも高貴な方がお泊りになられるから。

 プラム様は、風車の塔に、たったお一人うつされたの。


 それでも、先代のご領主は治ると信じておられたわ。努めて信じておられたわ。

 でも、ソラ様は・・・・」


マーゼはポケットからレースで縁取った上品なハンカチを取り出して、メガネの下、浮かぶ涙をそっと抑えた。


「祭壇ってね、司祭じゃない人が使うと、この世から消えてしまうのよね。」


 

アルパッサは驚いた。

極秘のはずなのに。マーゼは司祭でも、その見習いでもないのに! どうしてそんな事を知っているのか。


 

「ソラ様が領主を引き継がれてね、でも、兄のプラム様もおられるでしょう?

 パンデフラデは、兄が領主を継いできた町だもの。ご不安だったのかしら・・・。

 ダート司祭の時に、ソラ様が来られて祭壇を持って帰られた、と知ったとき、この館の皆はこっそり囁いたの。

 ソラ様は、プラム様を、この世から消してしまうおつもりだ、って。

 もう消えたと思って確認に行ったら、プラム様がまだおられて、その時とてもソラ様は怒ったって。

 いなくなるはずなのに、なんでだって。」


 

そんなまさか、と、アルパッサは思った。

驚いて、マーゼの様子と、小さく語られる内容に目を見開いていた。


 

あの、ソラ様が?

 


「ミト師に、わたくしにできることなら、何でもと、こっそりお伝えしてもらえるかしら・・・・?」


 

アルパッサは、驚きのあまり、口をあけっぱなしで、小さく首を横にふるふると振り、それから縦に振り、どうしてよいのか分からずまた横に振った。


 

マーゼも、ミト師も。

老いた方々は決して只者ではない、と、どこかで感じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ