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085. 図書室のアルパッサ

老司祭がいうには、まだ「前準備」が必要とのことで、二人は一緒に司祭の館へ戻った後、アルパッサの方はすぐに館の図書室へ向かった。


パンデフラデには、司祭の館の他にも、領主の館、加えて公共にも図書室・図書館がある。

禁を犯す必要があるのが身内の館の図書室で、まだマシだった、と、アルパッサは思った。

これが例えば領主の館の図書室であれば、挙動不審ですぐ見つかってしまいそうだ。


図書室の、奥の方。アルパッサは、椅子をゆっくり静かにひいて静かに着席したうえ、机の上に数冊の本を置いた。

もちろん、読むのは先代司祭の日記のみで、あとの数冊はカモフラージュだ。


あぁ、こういう、悪知恵みたいな知恵がどんどん身について、しかも磨かれている気がする。


いくら師匠の指示だからといって、本来の手順を踏まず、重要書物を読む、という罪悪感。

しかも、それをうまくこなしてしまう自分。

アルパッサはなんだか自分が情けない気持ちもした。


やはり、ミト師の弟子になったから、ソッチ方面の能力が磨かれていくのだろうか。

または、司祭という職業は、実は裏ではみんなこんなことをしているのだろうか。


いや、考えるまでも無く、激しく前者である気がする。


というのは、実はミト師は、一度、「性格の不一致」を理由に、育てていた弟子に逃げられたことがある、らしいのだ。

それは決してミト師本人から聞いたわけでも、語られたわけでもない。

司祭の館で働く皆が、なんだかんだで「実はね」なんて、頼んでもいないのに教えてくれたのだ。


普通は、跡継ぎとして、自分より20歳ぐらい年下の者を弟子にして育てるらしい。

が、その弟子に逃げられた。「私の『司祭』のイメージと、違うのです」などと言われた、というのは本当だろうか。本当かもしれない。

ショックからか、ミト師はすっかりスネてしまい、「『司祭』希望でなく、この『ワシという司祭』の弟子希望者でないと受け付けん!」といって、ずっと弟子を取らずに過ごしたらしい。


まぁそういういきさつで、だからこそ、ミト師の弟子の椅子はずっと長い事開いており、随分と年下であった自分が、なんの運命のいたずらか、そこに座ることになったのだった。


世の中とは不思議で、けれどどこかに神の道標を感じる、と、アルパッサは思うのだ。


その時、何かショックな事があっても、けれどそこからしか掴めない『縁』や『幸い』。

それらは確かに、存在する。



アルパッサは、心を落ち着かせた。

ホコリを払わないように、というミト師の言葉を思い出し、ホコリを吹き払いたい気持ちを抑えて、そっと、重要書類の扉を開いた。


指示されたのは、845年の9月3日。

それは、先代司祭の日記の、終わりの方の日付だった。


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