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084. 秘密

ミト師は説明を続ける。


「祭壇というのは、司祭の道具でな。

 司祭は、それを使って、司祭同士、情報交換ができるらしいのじゃ」


『らしい』というのは、老司祭本人は使用した事が無いからだ。


アルパッサは首をひねった。「なんか、想像がつきません」


「ワシもじゃ。ただ、ワシが極秘に知ったところによると、

 こっちの声を向こうに伝える事ができる箱みたいなもので、

 向こうの返事も、その箱から聞こえるらしいの」


「・・・師匠・・? 極秘とは・・・? 先代司祭さまから聞かれた話ではないのですか?」

アルパッサは訝しげに尋ねた。

先代から直接伝えられた雰囲気がなかったのだ。


「ふむ。何か、後ろめたい事をして、正しくワシに話せなかったんじゃろうの・・・おっと」


突然、老司祭はよろめいた。

弟子のアルパッサは驚いて、パッと支えるべく腕を師匠に差し出したが、師匠がよろめいたのはほんの一瞬だった。


ポス


何かが落ちた音がした。


ん、とアルパッサが地面を見ると、キラキラ磨かれた小さな金色の鍵が落ちている。

「落とされましたよ」

アルパッサが、かがんでそれを拾い上げ、師匠に渡そうと立ち上がって見ると― なんと、師匠のミト師は、スタスタ先を歩いていた。


「・・・・」

アルパッサは一瞬取り残された。

が、慌ててミト師のすぐ後に追いつく。


「あのー ミト師・・・」

小さな金色の鍵を見せるように右手につまんで、アルパッサが声をかけるのを、なぜだかミト師は目に入らないようだ。


そればかりか、声をかけているのに、聞こえないふりをしている。


「はー、そういえばアルパッサは、先代の日記を盗み見た事なんてないんじゃろうなー。

 若いのに冒険心の足りんヤツじゃのー。

 あぁ、鍵がかかっておったのぉ、そうじゃのぉ。

 あの鍵、どこへやったかのぉ」


「・・・」

アルパッサは、今しがた手に入れた金色の鍵と、まるで自分が居ないかのようにしゃべり出したミト師の顔を交互に見つめた。


(歴代の司祭の日記って・・・)

アルパッサは、心で師匠に突っ込む。

(領主と、司教の、両方の許可証を取った上でしか、見てはならない重要書物じゃないですか・・・)


それを、こっそり、盗み見て来い、と言っているのだ。


どうして盗み見るなんて事をしなくてはならないのか。

司教の許可は降りているに等しい。

さきほど領主に会ったと言うのに、領主にはそんな話もしなかった。


領主の許可が降りるはずがないのか。

または、領主には見ることを秘密にしておかなくてはならないのか。


「ワシらの館の図書室の奥のケースは、随分と古いしのぉ。慎重さが必要じゃろうのぉ。

 ホコリも払うと触ったのがバレるで、ホコリもそのまま、何も触っていないようにして、見るんじゃぞ。

 司書のマーゼにもバレんようにな」

独り言のつもりだろうが、しっかり、アルパッサへの語り口調になっている。


「・・・・」

かしこまりました、と、心の中でのみ答えて、アルパッサは大切にそれを衣装の内部にしまいこんだ。


「845年の9月3日あたりかの。天気はどうであったろうかのぉー」


「ミト師」

アルパッサは声をかけた。


「おぉ、そこにおったのか! 探したぞ」


何をいうのかこの師匠は。

アルパッサはおかしくて笑えてきた。

カギだって、別に、こっそり手渡してくれても構わないのに。誰も見てやいないのに。


「ミト師、本当に」

アルパッサは嬉しくなって、心からの笑顔になった。

「お元気になられて、本当に良かった」


ミト師は、一瞬素の顔になり驚いたようだったが、すぐに、柔らかい笑顔を弟子に向けた。嬉しそうだった。


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