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080. 花の都 パンデフラデ

この大陸「ターム」には、中心部東側の皇帝の町「ハルンザクト」、中心部やや西側の教皇の町「ソエンカエラ」、この2つの町を中心として、いくつもの町が存在している。


傾向として、

東側の町は皇帝の力が強い。行動的であり、騎馬を多く持つため、機動力に秀でた町が多い。かつ、大胆で明るく強い町が多い。何事にもダイナミックで派手好きだ。


対して、西側の町は教皇の力が強い。

どちらかというと穏やかで静けさを好む。かつ独自の文化を持つ町が多い。

何より、西の町は特に、この大陸の宗教(タルタと呼ばれる)の司祭が必ず一人は存在していて、神の世界や日頃の道徳を民に説いている。


そんな「西の町」の一つに、「パンデフラデ」という町がある。

豊かな土地のため余力があり花の栽培にも力をいれたため、大陸から「花の都」と呼ばれるほど花に恵まれた美しい町である。




その町「パンデフラデ」の唯一の司祭が、老齢にも関わらず、しかも、普段とは異なり、こんな早朝からパンデフラデの領主の屋敷へと歩を進めていた。


「ミト師! こんな早くから歩かれては、冷気がお体に触ります!!」

懇願するように、けれどどこか叱るように、その老司祭の後をぴったりついて、白いたっぷりとした「司祭見習い」の衣装をまとっているのは、その弟子のアルパッサだ。15・6歳で、すぐ先を行く老司祭と連れ立つ様は、「師匠と弟子」というより、「おじいちゃんとその孫」というほのぼのした印象を見る人に与える。

ただ、アルパッサは、幼いころから司祭の館で育っているため、男の子か女の子かさえ、町の者は把握していない。男と言われても女といわれても、どちらでも納得する中性的な顔立ちと背格好をしていた。


「師匠! 昨日まで『ワシはもうダメじゃ・・・』なんてベッドでお粥を食べてらしたくせに! どうしちゃったんですか!」

なんだかアルパッサの声が泣きそうで、ずっとその声を鳥の声のようにBGMに聞き流していた老司祭は、これはいかんと振り返った。


「なんじゃ、アルパッサ。ワシがあのまま、朽ち果て死んだ方が良いと申すのか?」


司祭のくせに意地悪な老人である。


アルパッサは負けじと反論した。

「そんなわけないですよ! でも、急に動いたら、2・3歩歩いて、突然ポクっと逝かれてしまいそうですよ、心配してるんですよ!」

表現方法に全く遠慮をしない弟子だ。


「フォ、フォフォ・・・心配せんでも良い、アルパッサ」

老司祭はそのアルパッサの物言いを楽しく感じた。


アルパッサが不信感をあらわにして師匠の眼を真っ直ぐに見つめる。


無理も無い。

確かに、昨日までは、この自分自身、もう命の炎が尽きると、その日はもう遠くないと感じていた。もう為すべき事は尽くした。自分の代は終わったのだ、と。


だが―・・・。


「ワシは、まだ死ねん」

老司祭は、アルパッサにはっきりと告げた。


「ワシには、果たすべき任を怠っておった。

 世の中の小さい枠組みの中で、その任は行うべきでないと思っておった。

 だが、ワシは間違っておった。

 ワシには、まだ為す事がある。

 まだ死なん。死なんぞ。」


アルパッサがやっぱり泣きそうな顔になった。

「なんで」

アルパッサが情けない声を出した。

「どうして、昨日まで寝たきりだったくせに、シャキシャキ歩いてるんですか・・・」


老司祭は首をひねった。

それは一重に、アルパッサや皆が部屋に居ないときは、退屈のあまり、色んなところをフラフラ歩き回っていたゆえに、足腰が衰えていなかったからであろう。

加えて、栄養バランスを考慮して、皆が食べ物を作ってくれるからであろう。


が、そんな事を正直に言うと、アルパッサに激怒されてしばらくご飯が貧相なものにされてしまいかねない、で、あろう。


老司祭は、しみじみと、深く頷いた。感謝と慈愛に満ちて響く声音で言った。

「これは神のご加護であろう」



はーぁ・・・・・

アルパッサは、深ーいため息をついた。


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