079. 着替え
「アト様、どこに行っておられたんです?」
メチルが、どこか疲れたような怒った表情で、アトに確認してきた。
「うーーーーーーー・・・・ん・・・」
秘密、といえば、怒るだろうな、と思って、アトは曖昧な返事でごまかそうとした。
今、アトは着替えのため、2Fの自室にいる。いつも通りにメチルに着替えを手伝ってもらっている。
父に着替えを指示されたからだが、
確かに寝巻のままで朝食を食べるなんて、アトにとってもあまりに行儀が悪かった。
クリスティンは、アトが着替える必要があったため、父・イングスと一緒に食堂に先に行った。
商人も食堂へと招かれていた。
ロバートさんとテルミさんは、1Fの玄関ホール、中央階段の右のあの「町の人を案内する部屋」で、別に朝食を召し上がっていただくことになった。
どうあっても、ロバートさんとテルミさんには、聞かせてはいけない話、とやらがあるらしい。
アト自身もグィンに「知らない人」呼ばわりされたため、しみじみため息をついてしまう。
とはいえ、自分は「知る人」側の食堂に招かれたのだけれど・・・。
「アト様!?」
ちゃんと答えないままふと黙ったのをメチルに怒られた。
「あ・・・ご、ごめん、考え事を・・・」
こちらからの質問でごまかしてしまおうと、アトは思った。
「あの、メチル、今日の朝、どこにいたの?」
メチルはため息をついた。
「お父さんに言われて、お母さんと私とサルトさんは、いつも通りにしていました。
ロバートさんたち、ものすごく早く来られて。
きっと、霧が消えた瞬間出発したんだと思うんです。
でも、来られた時は私は気づいてなかったんですけど、その後ワイワイ騒がしくなって、
それで行ってみたんですけど、もう何かケンカしてるみたいで・・・。
でもお父さんに、『普段の事をする者も必要だ』って言われて。朝食作ったりとか、お召しものの用意とか・・・
それで、お母さんと私とサルトさんはいつも通り。
でも私は、アト様が全然呼び鈴鳴らさないから、おかしいなぁって!」
「ご、ごめん・・・」
何か良い、誤魔化せる返事は無いだろうか。
「あ、お、お腹が痛くて・・・トイレに・・・」
「何言ってんですか!! 探したけど、居られなかったです! おトイレ!」
ち、調査済みだったとは・・・。
サァっと冷や汗が出てきた。
だめだ、嘘もつけない。
「はい!」
パンパン、と、メチルが、いつもより乱暴に服のしわを叩いた。
「あ、それからアト様」
「う、うん」
「イングス様が、『無理せず少し眠るように』と仰ってました」
「え?」
確かに、言われてみれば眠い。
結構眠い。気がしてきた。
でも、食事は・・・。
「どうされます?」
メチルが下からのぞきこんできた。
「昨日、寝ておられないんですね?」
「うーん・・・夜中に目が覚めちゃったんだ・・・」
「で、ウロウロと?」
「うん・・・・・」
「イングス様は、お見通しなんですね」
そりゃそうだろう、だって全て知ってるのだから。
と思ったが、これは口には出さなかった。
というより、メチルの方がお見通しっぽい・・・と、アトは思った。
それも口には出さないことにした。




