078. 知る人、知らない人
アトはキョトンとして、グィンを見詰めた。
グィンは商人の方は父とデルボに任せて、こちらに歩んできていた。
グィンは、静かに、いつものように、どこか感情を落としたような声で言った。
グィンの言葉は、いつも、『言った』というより『告げた』という感じがある、とアトは思うがこの時も特にそう思った。
「申し訳ないのですが・・・ロバートさん、テルミさん・・・。
語れる人にしか語れない話というのがあります。
クリスティンは、あなたたちには、話してはならない話を持っています。
それを認めてやってください。あなた方を裏切っているわけではありません。」
「裏切るなんて思ってないわ・・・」
テルミさんが弱く強く反論したが、グィンはそれをうなずいて認めて、しかし続けた。
「今は、外の商人の娘の救出を考えます。
クリスティンには詳しくを聞きます。
クリスティン、私には話しても大丈夫だ。イングス様にも大丈夫だ。
アト様には・・・聞いてもらう分には構わないだろう。だがアト様は知らない側の人なんだよ」
知らないのだから教えてくれる必要があると思う、
と
アトは思った。
「グィンさん・・・」
ロバートさんが咎めるような口調で呼びかけた。
「 ゥパ パ ママ 」
クリスティンの声に夫婦はわが子を見詰めなおした。
潤みっぱなしの瞳は相変わらずで、けれどものすごく訴える目をしていた。
アトにはやはり何を訴えているか分からなかった。
テルミさんがぎゅっとクリスティンを抱きしめた。
ロバートさんがテルミさんごと、クリスティンを抱きしめた。
テルミさんとロバートさんには クリスティンの言いたいことが分かったんだろうか。
「僕・・・」
アトは言った。「もう一度、その子を探してきます」
「アトロス様」
グィンが静かにどこか冷たさを感じる声で言った。「今の時間は いけません」
いけません。とは。
「イングス様」
グィンが父を呼んだ。
父の向こうで、商人が、泣いていた。
デルボが、今度はなぐさめるように肩を叩いていた。
父が振り返った。
こちらの様子を見て、父が言った。
「朝食の用意を。
アトロス、着替えてきなさい。それから食堂に。
クリスティン、話を聞きたいので、アトロスと一緒に来てもらえないだろうか」
クリスティンは、うなずいた。
アトも自分の身なりに気がついた。
そういえば昨日深夜に目覚めてから今に至る。寝巻姿のままだった。
「ロバート、テルミ・・・申し訳ない
クリスティンは、石見の塔の老婆様に、人に言ってはならないと運命を聞かされたようだ。
あなた方を大切に思うから、クリスティンにはあなた方に話せない事がある。」
テルミさんが聞いた。
「イングス様は― クリスティンの運命を、ご存じなんですか」
「いや、クリスティンの運命については、私は知らない。
だが、別方面から、クリスティンには、あなた方を大切に守るために、あなた方には言えない事がある、というのを知ったのだ」
ロバートさんとテルミさんは目をふと合わせて、それからクリスティンを優しくなでた。
クリスティンはまたぎゅっと二人を抱きしめるように抱きついていた。
ちょっとうらやましいなと アトは思った。




