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076. 母

アトは立ち尽くしていた。何をどうすれば良いのか まるで見当がつかなかった。


父は商人に話しかけている。商人は怒鳴り声を強くする。父はグィンと顔を見合わせ、それからまた二人で商人に話しかけている。


クリスティン親子は・・・クリスティンはテルミさんに抱きしめられるように・・・

クリスティンが濡れて腫れぼったい目を上げて アトを両眼で見つめた。


ドキッとしたが、まるで呼ばれたように、アトもクリスティンを見詰めなおした。


クリスティンはまだしゃくりあげているが、ぐっと顔を上げてアトを見詰めている。


何かを目で話しかけているぐらいに、何かの意志を感じたが、アトには何を訴えているのかが掴めなかった。



アトはクリスティンの方に歩み寄った。


クリスティンは口を開きかけた。



口を開きかけると 泣き声にしかならないようで


またウェと声をだすとボロボロと泣いた。




クリスティンを見詰め。


アトは、クリスティンの母であるテルミさんに、


「一体・・・・?」と


まるで アト自身が助けを求めるかのように聞いていた。



テルミさんは首を振った。


何も知らないのか、と思ったが、首を振った後に、アトに答えた。


「あの、商人の方の、娘さん-ダロンちゃんを、クリスティンが家に連れてきた― の。

 でも 居なくなってしまったの。」


「居なくなったって・・・」

そう、自分は詳細を知らないのだった、とアトは静かに思った。

どういう経緯で・・・その子が、あんな奇異な世界にいるかもしれないという話になったのだろうか。


「それが・・・」

テルミさんは言い淀んで、また自分に抱きついてぐしょぐしょに泣いているクリスティンの頭を見詰めた。


詳しいことは、クリスティンしか知らないようだ、と、アトは思った。


アトは口を開きかけた。

けれど、無責任なこの場に相応しくない何かを言ってしまいそうで、結局何の言葉も出てこない。


「アトさまが、探してくださると、この子は言ったの。

 それに、大変な事が起こったに違いないと思って・・・霧が晴れるのを待って、イングス様に、相談しなくてはと思って」



あぁ、そうか、もう朝なんだ、と、アトは知った。

朝になり、霧が町から引いて、町の外への扉が解除されて-・・・解除されるや否や、クリスティン親子はこの居城に来たのに違いない。



アトは商人たちを振り返り、見た。

どういうタイミングかどういう流れか、商人も、この親子がここに来たことで、自分の娘が行方不明だと知ったのだ。


それで、皆で、自分の帰るのを待っていた。

その子を連れて帰ってくるだろうと―――。



「クリスティン」

小さく囁いたのは、テルミさんだった。

クリスティンの髪を撫でていた。


「アト様に、お話できる・・・?

 クリスティン。

 大切なことは 言葉にしないと うまく伝わらないことも たくさんあるのよ―・・・」


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