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070. 退室

「アト! アトロス! 無事だったのね! どうして返事をしないのー・・・ 声、届かなかったの!?」

母が両手を広げ、出迎える。


「アトロス」

父も一歩踏み出した。

「居たか。見つかったか」


母に抱き寄せられながら、アトは父に顔を向けた。

父は、険しく真剣な顔をしている。

この部屋に父が居る事―そして、この真剣な問いに、正直なところアトは気を挫かれたような気持ちになった。

「い え ・・・誰もー・・・。いえ、3人、違う人は見ました・・・」


父は言葉を出さず、アトをじっと険しい瞳で見つめていた。


「あら?」

母がアトの首や胸元をペタペタ触っていた。

「ペンダント、どうしたの? 無いじゃない」


「えっ」


「それは良い。アトロス、お前も一緒に来るのだ」

父が、身を翻した。


アトは父の背と、そして振り返った父の顔と・・・、それからアトの顔の間近で眉をひそめている母という人の顔を交互に見た。


「早く来なさい。皆がお前の結果を待っていたのだ。

 サリシュ、また来る」


「・・・えぇ。・・・・可愛そうなクリスティン・・・。」


母がアトロスを解放した。

正直、アトは事態がどのようになっているのか飲み込めていなかった。

ただ、父がついてこいというのなら、ついていくべきだと思った。


「イングス。娘さんの名前、今度こそ聞き出してちょうだい。本当の名前。」


「・・・分かっている。だが、すでに我々に不信感を持っているのだ―・・・。アトロス! 来なさい!」


アトは父の傍に行った。それほど高くない背を見つめた後、後ろになった母をふと振り返った。


白い顔に疲労が滲む、あまり見知らないきれいな女の人が、心配そうに、そして何故だかやや怒った様子で、自分たちを見つめていた。

その背後には、大きな、青く光る暖炉。


「去るぞ」

アトは、がしっと強く、父に右肩を掴まれた。


グラァ、と、視界が揺らぐような感覚が、アトを襲った。


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