006. フォエルゥ
フォエルゥは、喜び勇んで僕の元に駆け寄ってきて、僕は嬉しくて、ちょっと胸を広げて迎える体制に入った。
ネチャっと、服が音を立てた。
フォッ!?
フォエルゥは、だぁっと走りこんできたくせに、驚いてビョン、と後ろずさった。
「・・・?」
僕は、訝しげにフォエルゥを見た。
フォエルゥは、それでも、僕に向かってこようとしたのだけれど、途中で「フゥッ」と声を出して、後ろに飛びのく。
フォ(飛びのく)
・・・グルゥ(甘え声)
・・・ グルグル(甘え声)
・・・クォッゥ(飛びのく)
「・・・・。何やってるの?」
フォエルゥは、まるで、「飛びつきたいけど無理!」とでも言いたげに、困った顔で僕を見た。
まるで、僕の周りに見えない防御壁でもあるみたいだ、と僕は思った。
塔に行ったことで何か僕が変わったんだろうか?
フォゥ! フゥッ!! グルゥ!
フォエルゥは、相変わらず僕に挑戦しては、やっぱり壁を乗り越えられないらしく、困ってうめき声を出している。
「フォエルゥー? どうしたのー?」
玄関上のテラスから、メチルが顔を出した。
「あっ! アトさま!!」
パァ、と喜んだような明るい表情をしたすぐあとに、身を乗り出して、僕を、妙な目でジィと見つめた。
「あれ・・・今日のお召し物はクリーム色だったはず・・・」というメチルの呟きが、丁度流れてきた風に乗って聞こえた。
風向きが変わった。
「わぁ!」
メチルが飛びのいた。
「カエル臭い!!!!」
飛びのいたメチルが、またテラスから身を表した。
「アトさま!! カエル踏んじゃったんですか!!!」
言うなり、メチルはテラスからまた飛びのいて、タタタッと駆けていった。
着替えを用意するか何かしにいったんだろう。
「・・・・」
そんなに臭いかなぁ。
自分では気付かなかった。
「あ。フォエルゥ」
いつのまにか、フォエルゥが、僕の傍にジリジリとやってきて、顔を、僕の義手にコン、とつけた。
僕は嬉しくて、義手でフォエルゥを・・・なでようとして、緑色に染まった義手を改めて見て、なでるのを止めた。
ちなみにあのカエルの青い体液は、時間が経つと緑色に変色して、粘り気を増す。
「フォエルゥ、なでるとキミまで臭くなるから止めとくよ。
真っ白なキミの毛が、緑色にからまっちゃうしね。」
僕が笑いかけたら、また服がネチャっと音を立てた。
それでも、フォエルゥは、じっと、耐えながら、僕の傍で僕をじっと見つめていた。
顔をつけたい衝動を、僕もじっとこらえた。