050. クリスタルスレイ
リーん。りー・・・・ン
羽根を狙う金茶色の瞳の主―セフィリアオンデスは、駆けながら、自分の身の回りを取り巻き出した『音』に気付いていた。
細い細い振動。まるで自分を包むベールが1つ追加されたようだ。
タッタッタッタッタ
セフィリアオンデスは、右腰のポケットから、ソレを取り出した。
先ほど、落下から助けてやった小僧が持っていた青い宝石。ペンダント。
タッタッタッタッタ。
走りながら、セフィリアオンデスは、それを右手に握り締め、その手を胸の辺り、顔の辺り、頭の上・・・などに移動させた。
それから、額の辺りで手を止める。
この音は、セフィリアオンデスに「五つ」あるうちの「第二の耳」が聞き取れる範囲の音らしい。
リーン・・・。
混ざって、別の音が聞こえた。
『アト・・・! アーーーートー!!!!!』
『答えなさい、アトロース!!!!!』
「ん?」
セフィリアオンデスは、走り続けながら、大きな両眼で額の付近に持つ青い宝石を眺めた。
「アト ロース? 誰だそりゃ― あぁ、あの小僧の名前かしらん」
と思ったが、
何分、小僧には無断でいただいた品物なので、答えを返すとややこしい事になる。
セフィリアオンデスは、聞くだけで、答えないことにした。
『アートーロースー!!!!!!! アー トー!!!
もぅ! 変ねぇ。繋ぎ方がまずいのかしら? えーと・・・・』
リーーーーーン!!!
あの細い振動の音の量が、倍になった。
突然の音量増加に、走っていたセフィリアオンデスは、トッピョン!、と跳ねてしまった。
『アートー!!!!』
リーーーーーん!!!
『アトー!!!!! アトロスー!!!!!!』
「チッ、煩い女だな」
セフィリアオンデスは、額の位置から手を離した。これ以上耳元で聞くと、耳がしびれてしまいそうだ。
リーン!!!!
あまりの煩さに苛立って、セフィリアオンデスは、腹辺りに下げたその青い宝石に、ガッと左手で衝撃を加えた。
『あら・・・・?』
声が聞こえたが、小さくなったようだ。
ヤッタぜ。
リ・・・
『・・・ァト様・・・ァト様・・・・ァト様・・・』
「は?」
セフィリアオンデスは小さくなった音源、右の手の中の青い宝石を見つめた。音が変わった。
しかも、馴染みのある声ー・・・。
セフィリアオンデスは、また右手を体のあちこちに移動させ、胸の辺りで停めた。「第二」と「第三」の耳で受信可能。
『クリスティンです、アトさま・・・アトさま、聞こえていたらお返事ください・・・アトさま!
お願い、ダロンを探さなくちゃ! アトさま!』
セフィリアオンデスは、ほっと柔らかい笑みを浮かべた。
あぁ、聞き知っているはずだ。クリスティン。「第三の世界」に住んでいる、小さな友人。
きちんとその声を聞きたくて、セリフィアオンデスは足を止めた。
今は、クリスティンの声だけがその青い宝石から聞こえた。
『アト様ー アト様ー!! ぼく、クリスティンです! アトさま!』
セフィリアオンデスは、誘惑に駆られた。
クリスティンは、自分とは別の世界に生きている存在。
けれど、自分の世界に語りかけてくる、稀な、愛しい存在。
自分の世界で、皆、クリスティンをほほえましく思っている。
けれど、クリスティンは、自分の声が、他の世界の者に届き、親しまれているなど知りもしないだろう。
クリスティンは身の回りすべてのものを愛でている。
クリスティンの世界を愛でる「声」は、クリスティンの世界とセフィリアオンデスに共通する存在から、伝わってくる。
共通する存在は、主に鉱石。
鉱石は歌って喜ぶ。“存在を認めて愛でてくれるクリスティン坊や! 我らの友、クリスティン坊や!”
鉱石と交流のある自分たち―『クリスタルスレイ』―鉱石人種とも自称する― もやはり、その声を愛でる。
自分たちとは世界を異にしながら、同じく鉱石世界を愛でる稀有な者よ!
だが、クリスティンからまるで子守唄のように響くその声は一方的にこちらに響き、
こちらから語りかける事が出来ない。
なぜなら、『クリスタルスレイ』ほど、クリスティンの耳は音を拾わないらしく―・・・。
こちらから声が届くか、試みても、クリスティンが聞こえたようには、思えないからだ。
今、セフィリアオンデスは・・・試してみたい、と思った。
稀な愛しい存在、クリスティン。
この宝石を使えば、私たちの声がキミに届くだろうか。




