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047. アト 

困ったな、と、アトは思った。


それから、また後ろを振り返った。


黒いフォエルゥが、“ォ・・・ゥ”と声を出した。


ん、とアトが見つめる中、黒いフォエルゥは、ゆらり、と頭を前に揺らし、黒い長い波打つ毛の中から、ニュ、と二本の両手を地面に突き出した。


アトはギョっとした。

その二本の手は人の手に似ていた。

先ほど足の甲を見て、人間かもしれない、と思ったが、あまりにもフォエルゥに似ているという意識が強くて、その可能性に自分が馴染めない。


だが・・・。


黒いフォエルゥは、また吼えた。

“オォ・・・・・オゥ”


それは、アトの皮膚を・・・いや、もう少し内部から、体を震わせるような声だった。

耳で聞く以上に、体を振動させる声だ。


黒いフォエルゥは、ユラァリと、立ち上がった。


何故だろう。

アトには、黒い影ばかりが見えて、姿かたちがよく捉えられなかった。

長い毛が全身を覆っているのは分かる。

伸びる足の甲が人間のそれに似ているのも分かる。

腕は、また長い毛の間に隠れてしまった。

顔が・・・顔に当たる部分は推察できたが、例えば、目や、耳や・・・顔のパーツは見えなかった。


人間?


アトには分からなかった。


それとも、目の前に居るのは、自分とは違う世界の人間か。


黒いフォエルゥは大きかった。

アトの背の2倍はあるかと思われた。

背中を丸くして立っていた。もし背筋を伸ばしたなら、さらにその差は開くだろう。


それでもアトは親近感がわいた。ただ、自分の家族であり親友であるフォエルゥに似ているというだけで。


「キミは?」


アトは名乗る事にした。


「僕は、イシュデン=トータロス=アトロス」

この名前だけで、自分が、イシュデンに住んでいて、それを統べる家系のものだという事が、大陸の者なら分かるはずだった。

「良かったら『アト』と呼んで」


“・・・・・・・・・ォゥ”


黒いフォエルゥとアトは非常に間近で対面していた。

アトは、その距離に慣れていた。本物のフォエルゥとは額をつけたり鼻をつけたりなどしいるからだ。


「キミは・・・?」


アトは、黒いフォエルゥをジィっと見つめていた。

フォエルゥとは意思の疎通がはかれる。

表に出ている言葉などは問題ないという感覚が身についていた。


「キミは・・・・」


“ウ・・・・オ・・・・・・ゥ・・・・”


アトはジィと、黒い、顔だと思われる部分を見つめた。

この目の前の、人間かもしれない黒いフォエルゥが、自分の言葉をどれだけ把握してくれているか、また、その声が何を表しているのか、正直さっぱり分かりはしなかった。


アトはジィと、見つめていた。

目の場所も分からないので、向こうが、どんな風に自分を見つめているか分からなかった。


それでも、アトは言った。まるで、長年の親友に語りかけるように。


「ねぇ、僕、さっきのあの人に、聞きたいことがあるんだ。だから僕もあっちに行こうと思うんだけど、キミも、来る?」


黒いフォエルゥは、自分を、ジィと見つめているような、気が、アトにはした。


そんな気がするのは、何も分からないから。自分がそう思いたいだけなのかもしれない、

と、

アトは思った。


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