035. 咆哮
アトが、自分には忘れた記憶があるらしい― 一体ー・・・と自分の記憶を探そうとした時。
部屋が、大きく呻いた。
”ウォォ・・・・オォオオオオオオ・・・!!!”
「・・・これは?」
「・・・さぁ・・・何かしら」
母という人は、暖炉の方を見つめている。青い光を放っている。
「今日は・・・変な日だわ」
そして、アトを見つめた。
「そもそも、アトがこの部屋に来れたのも・・・『今日』だからかもしれないわね」
「どういう・・・ことです?」
「分からないわ。でも、この部屋には、普通は入ってこれないのよ。『繋がり』を持っていないとね」
繋がり? それは・・・
「・・・親子だから、僕はここに来れた?」
「その繋がりとは、また別のものなの」
それから、母はアトの額にキスをした。
「あなたが忘れたのは、あなたには非のないことよ。ごめんなさいね、アトロス。
分かっていたけれど、淋しかったのよ」
母は何か―秘密のような真実を持っている、 と、アトは思った。
母は続けた。
「あなたを大切に大切に大切に思っているわ。
ずっと覚えていて欲しいとは言わないわ。
でもまた会いましょうね」
どういうことだ。
「母 上 。
この・・・この部屋は?」
母は自分の言葉に頷くかのように言った。「秘密の部屋よ」
「一体―・・・」
「私は、ここで、この町の『記憶の守』をしているようなものよ。町として必要なの」
「記憶の守―・・・・?」
また、部屋から、地の底からのようなうめき声が聞こえる。
“ヲォオオォ オオォオ ― ― ― ・・・”
母がまた暖炉を見つめた。心配そうにじっと見つめている。
それから、気がついてアトに尋ねた。
「アトロス。あなた、クリスティンって子、学校で知ってるわね?」
クリスティン?
アトはキョトンとした。「いいえ」
「あら? でも、学校でアトに会った事があると・・・」母は首をかしげた。
クリスティン? 学校にそんな名前の子、居ただろうか。




