034. 母
「隣の、部屋?」
アトは繰り返した。
「・・・僕の部屋は、どっちですか」
「あっちよ。その壁の向こうが、あなたの部屋よ。」
暖炉がある壁の方を指差す。
アトは、自分の部屋の位置を考える。
あちらが自分の部屋・・・だとしたら・・・。
そういえば、ここに来たルートを考える。
ここには、自分の部屋を出て、廊下を左に進み、角を折れ、左側にある鏡面の一つを通って・・・たどり着いた。
つまり確かに、自分の部屋の左側にこの部屋があるということだ。
そういえば、確かに、自分の部屋の隣には部屋が無く・・・その割には廊下の方が長かったが、
何分変な構造の建物なので、単に何かの都合でそうなったのだと思っていた。
隠し部屋があったということか。
隠し部屋・・・あったとしても不思議はないが・・・。
「なんだか、大人になったわねぇ。難しい顔してるわ」
嬉しそうに、覗き込まれる。
難しい顔をしているのは当たり前だと思うのだが・・・。
「母、上・・・。」
「まぁ」ぱぁあああっと、また嬉しそうに笑んでいる。「なぁに、アトロス」
「なぜ、生きていらっしゃるのに、この部屋で・・・お会いした事も無く・・・ なぜ」
母親のように思えてきた人は、プゥとほっぺたを膨らませた。
それから、肩を落とした。
しょんぼりした風で― いや、演技だろうか? ― 若干そっぽを向いてこう言った。
「どうせ私なんか― 忘れ去られてしまいますよー だ」
大人とは思えない態度。
あなたは子供ですか。
思わず、心でつっこんでしまう。
目の前の人は、アトの顔をバっと見つめた。
「アトロス。あなたは、何を覚えているの?」
「え」
心で突っ込んだ瞬間だったので、非常にドキリとした。罪の意識か。
「私は、あなたに沢山の事を教えたわ。実際会って話せなくなるけど、ずっと愛していると伝えたわ。
でも― やっぱり、忘れていたのね!
イングスに― お父様と、私の話をしなかったの?」
「えっ」
なんだか、こちら側に非があるらしいぞ。




