032. 一息
アトの様子に、母という人は笑った。
「ちょっと、おかけなさいな。」
アトに椅子を勧めた。それから、壁際の―まるで小さな台所のようなコーナーに行き、コップに水を入れて持ってきた。
お盆にのせて、ではなく、直持ちだ。
「お水しかないの。ま、お飲みなさい」
進められるまま、アトはその水を飲んだ。
一口飲んで、一息吐いた。
と、どこからか妙な声が聞こえる。
アトが顔を上げてぐるりと部屋を見回すと、目の前の人は、「あぁ、ちょっと待ってて」と言い、広い部屋、奥に向かった。
まるで暖炉のようなものが壁についているが、そこから放たれているのは、暖かい炎ではなく、もっと別種の― 青い光?
「・・・◎☆ □・・** OO・・」
暖炉に話しかけている。何を言っているのか分からない。
全てが謎でアトは眉をしかめた。
それから、母という人は戻ってきた。「お待たせ。落ち着いた?」
「いえ・・・」
思いのほか正直な言葉が口から出てしまった。
あまりの状況の特異さに、落ち着くも何もあったものではない。
まぁ、水を一口飲んで、すこしは冷静になった気もするが・・・。
母という人は、自分の斜め前・・・テーブルの角を挟んだ位置の椅子に座った。
それから、行儀の悪い事に、テーブルに頬づえをついて、アトを見た。嬉しそうだ。
「元気そうね」とてもにこにことしている。
「あの・・・」アトは、やっと、一つを口にした。
「・・・母上は、亡くなったとばかり・・・」
言ってから気がついた。この人は、実は父の再婚相手かもしれない。




