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031. 胸中

アトは、いまいち事態が飲み込めなかった。


メチルの買物のお陰で、どうもこれは現実のように思えるが、しかし正直、現実にしては信じられない。



母について、アトが覚えている事は正直全く無い。


物心ついた時からすでに母は居なかった。


確かそれまでに確かめた事もあったろうと思うが、母は自分には居ないものだと思い、過ごしてきた。


いや、そういえば昔、父に母の事を聞いたはずだ。


父は、母のことを、「綺麗な人だった」とか言ったのではなかったか。その言い方と父の態度からも、母はもう居ないのだと― 。




自分が小さい頃に亡くなったのだと信じていた。


しかし ― どうも現実のような気がしてきたこの「今」、目の前に居る人は、私はあなたの母親ですよ、などと言う―・・・。




しかも。



ここは 居城の中。





まさか 亡くなったと思っていた母が実は元気に生きていて― しかも、同じ建物の中に住んでいた― なんて。


そんな馬鹿な話が―・・・。




いや そういえば父上も 知らないとか― 

いや、さっき、会話の中で登場したー・・・





アトは胸が一杯になってきた。喜びというよりも―




アトは口を開けた。


言葉を出そうとするのに、言葉がでなかった。



あまりにもたくさん、分からないことがありすぎる。


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