026. イシュデン領主
深夜―父母の部屋の明かりが消えたのを確認して、クリスティンは居間を抜け出した。
物音をたてないよう注意を払いながら、ハシゴを登って自分の部屋に行く。
クリスティンは、『祭壇』を取り出し、窓際に置いた。
指で弾くと、キィン、という音とともに、それは小さく青白く光った。
「イングス様、イングス様、お返事をください。イングス様」
まるで呪文のように『祭壇』に向かって繰り返す。
応答は無い。
「イングス様」
「僕は、クリスティンです。イシュデンに住んでいるクリスティンです」
「両親が床屋の、クリスティンです」
「アト様とも学校でお会いした事があります」
「助けてください、お願いです」
「イングス様、応えてください」
<こちら SU7787 ガデギュッフ。イシュデンのクリスティンくんへ>
誰かから応答が来た。
「はい。あなたは?」
<イシュデンのクリスティンくん。キミ、個人情報を流しすぎだよ。だだ漏れだよ>
「でも・・・」
<俺は善意から注意しにきただけ。あまり実際の情報を流さない方が良い。何がキミのところに向かうか知れたものじゃないしさ>
「・・・。ねぇ、僕、人を探してるんだ。ダロンっていう女の子。知らない?」
<知らない・・・が、そういえば、緊急通知が回ってたな>
クリスティンは息を飲んだ。
<まぁ、俺には関係ないと思って詳細しらない>
「お願い、助けて」
<意味わかんねーし。悪いけど、相手してられない>
「どうして?」
<ヒマじゃないから。ただ、あんまり危ないから、それだけ注意しにね。悪いけど>
「・・・ねぇ、お願い。『聖域』に入っちゃった人を、どうやって探したら良いかしってる?」
<・・・。悪いけど、構ってられない。ごめんね、クリスティンくん>
≪こちら、AA203 サリシュ。クリスティン、私はここに居ますよ≫
「え?」
≪イングスを探していると知って― たぶん、あなたが探しているのは、私だと思うの≫
<AA203、サリシュだって?>
≪ええ。ごめんなさいね、クリスティンと話をしにきたのよ・・・。クリスティン、初めまして≫
「はじめまし・・・て・・・? あなたは・・・?」
≪イシュデン領主、サリシュです。あなたが探しているのは、イングスではなく、私の方よ≫




