025. 応答
クリスティンの呼びかけに、反応がすぐにあった。
<どうした。こちら、NO30902。ローハスだ>
「DO912。クリスティン。教えて! あのね、ダロンがー!」
<クリスティン。初めまして。まずは落ち着いて。話を聞くから>
たしかに、慌てているのは自分でも分かった。でも、一刻を争う事のように思える。
「聖域の門が、開いてて! 女の子が、居たのに居ないの! どうして!?」
<大丈夫、落ち着きなさい>
「大丈夫!? ダロンの居場所を、知っている?」
<いや、すまないが、私は知らない。ダロンと言うのだね? けれど、女の子と言ったようだが?>
「女の子だよ。ダロンだよ」
<クリスティン、キミの町では、ダロンというのは、女の子の名前かい?>
「えっ、そんな名前、僕の町に居ないよ。どっちか知らない」
<・・・そうか。女の子というのは本当だね?>
「そうだよ。僕はそう思う。ねぇ、早く探して・・・」
<落ち着きなさい。私が知りえる情報で考えるに・・・>
「何?」
会話の相手は黙り込んだようだ。
「ねぇ、どうしたの? 早く― 探さないといけないと思うんだ」
<クリスティン。キミ、『祭壇』の注意事項を、勿論、知っているはずだね?>
「うん、でもそれよりー」
<聞きなさい。『祭壇』は、聖域への扉を開く。我々の住む世界とは別のところに繋がっている>
聞くしかない。
<許可を受けた私達は、こうやって、会話に使うことができる。
同時に、注意を受けたはずだ。他のものには触らせてはいけない。存在を、知らせてはならない。
―何故かは知ってるかい?>
「・・・知らない」
<・・・・。これは、私の推測だよ。クリスティン。けれど合っているはずだ>
いいから、早くして。
<居なくなったのは、ダロンという名前の女の子。
ダロンというのは、少なくとも私の感じでは、男の子の名前だ。
それなのに、女の子だという。おかしい話だ。
偽名だと思うんだ。
キミは、女の子だと思う、と言ったね。つまり、男の子のふりでもしていたから、断定できない>
だから?
<祭壇は、扉を開く。
私達は、大丈夫だ。
けれど、私たちの世界に生きていて、けれど、生きているような気がしない人は―・・・
向こうの世界に、入ってしまうのだよ。
そういう世界なのだよ。私たちが便利だと使っている世界というのは>
「・・・・意味が分からないよ。ダロンはどうなるの? 探せるよね?」
<姿が消えたのは、その子が、この世界で生きているように感じていなかったから ― 移動してしまったのだ。
向こうの世界に。
そして、私が推察するに、その女の子は、偽名を使っていた。
あの世界では、本当の名前でないと探せない。呼んでも、本当の名前でないと響かないんだ。応えないんだ。>
「ダメだよ。探すんだ」
クリスティンは泣きそうになった。
「ダロンを探すの、どうしたらいいかな?」
<・・・申し訳ない>
会話の相手に、謝られてしまった。
<・・・私には・・・その方法が、分からないよ、クリスティン・・・>
クリスティンは、泣きたくなるのをぐっとこらえた。
これは・・・父母には相談できない。秘密にしないといけないモノ。秘密にすることで、秘密にした人を守ると言われて渡された。
抑えるのに溢れる涙を服の袖で拭った。
どうやって探せばいい?
僕も、そっちの世界に入ればいい?
でも、どうやって入ったら良いの?
<DO912・・・クリスティンはイシュデン領国に居るんだね>
「うん」
<私は、イシュデン領主と、話をした事がある。名前は忘れたが。確かに、イシュデンの領主だった。
会えるなら、相談してみてはどうかな>
イシュデン領主 ― イングス様!
「ありがとう! えーと・・・ローハス!」
<・・・幸運を祈ろう。私もできるだけ皆に、伝えてみるよ・・・キミと、友達に起こった事を。
キミに道標が与えられますように>
会話を終了して、クリスティンは普段働かせない知恵を必死に働かせた。
オブジェを元の場所に隠して、それから、父母のところに戻った。
ダロンが消えた説明が難しい―・・・。もう寝た、と言った。
父と母が一緒に寝ましょうと言ったが、やっぱり狭いし、一度居間で寝てみたい、と言ってみた。
いつも突拍子も無い事を言う息子の突然の予定変更も、父母は笑って、残念だけど、それで良いわ、と言った。
これで、夜中に、部屋に戻って、もう一度『祭壇』を使おう・・・。
イングス様と話がしたい。
ダメでも、誰か、僕にできる事を教えて。
誰か。




