022. 深夜
濃霧の笛が鳴ったのは、アトの父親―イングスと、メチルの父親―グィンが話をし、
そして、商人に話をし、そして三人ともがチラチラとアトを見ながら―
間違いなく、自分を旅に連れて行ってくれるよう頼んでいるのだ―
そして、父とグィンがまるで目隠しのような位置に立ち、商人に、袋に入れた別のコイン(?)を渡したようだ。
あぁ、僕は旅に出るらしい―
アトがため息をついたのとほぼ同時ぐらいに、霧笛が鳴った。
濃霧を知らせる、物知り博士のオクロドウさんが鳴らす笛だ。
オクロドウさんは、いつも夜になると一番北西の部屋に居て、霧の様子を観察している。
目の前が真っ白で見えないぐらいの霧が夜に出る。
時間は季節によって変わるが、日によっても前後する。
真っ白な霧は、本当に視界を奪って危険なので、父が外出を禁じるようになった。
オクロドウさんが鳴らす笛は、とてもよく響き伝わり、町にさえ届く。
町の担当者が、この音を聞き取り、町の建物内についている鈴を鳴らしあい、濃霧を伝える。
鈴が鳴ると、やはり担当者が外へ開く扉の鍵を全て閉める。
町そのものは、扉の中に通路があるから、外に出れなくてもある程度行き来できる。
そして皆、帰宅し、眠りにつく。
外出を禁じる笛が、自然と、帰宅・就寝の合図にさえなっていた。
笛の音を聞いて、鍵を閉める係りのデルボが玄関ホールをズカズカつっきって、玄関の扉をガチャリと閉めた。
商人が驚いた。
「アトロス」 説明をグィンに任せ、父がアトを呼んだ。
「はい」
「マチルダとメチルに、客室の用意をするように頼んでくれ」
「はい」
今日は、客人が館に泊まるようだ。
***
考えてみれば、本当にたくさんの事が起こった一日だった。
そもそも、外からの者なんて見たのはこれでようやく3人目だし、客が館に泊まるのは初めての事だった。
だからだろうか。
深夜。アトは、なぜだかパッチリと目が覚めてしまった。
「・・・」
どうして目が覚めたか分からないが、もしかして色々あって興奮しているのだろうか。
「・・・」
喉が渇いた。かもしれない。
が、いつもは朝まで寝るのだから気にしなくても良いのかもしれない。
このままもう一度寝てしまうか。
と
何か 気配を 感じた。
アトは、耳を澄ませた。
確かに・・・何か・・・気配が、廊下で・・・しているような・・・。
フォエルゥの気配では、決して無い。




