002. 予言-前夜
明日、石見の塔に行く…という前夜に、僕には珍しく、ハッキリと夢を見た。
夢の中、僕はまだ小さくて、やはりまだ小さかったころの友達たちと遊んでいる。
僕は、石見の塔の壁、積み上げられた石と石の隙間を、両手でガッシリと掴んで、塔をよじ登ろうとしている。
―― そうだ、昔、みんなで、石見の塔の探検に行ったんだ…。
僕の両手と、空へと高く続く石見の塔の壁。案外登れてしまうんじゃないかという気がした。
―― あぁ、そうだ、僕には、このころ、両手があったんだ…。
夢の世界が変わる。
ここは? もしかして、塔の中に入ったんだろうか?
石造りの部屋。それなのに壁が明るく優しい光を放っている。
高いところに、とてもキレイな女の人が、僕を見て… 宙に浮いて、立っている。
まるで光の精霊のようだ。
その人は僕のそばに降りてきて、それから両手で、僕の両腕…すでに途切れている両腕…を、そっと伸ばした。
“ アト 。 あなたの 両手は 何でも掴むことができるのよ 。”
僕にはそれはとても奇妙な内容だった。
“ 見えない手は、見えないものを掴むことができるのよ。”
***
夢から覚めた。
朝が来ていた。
バカみたいな夢をみた、と、思った。
あぁ、そうか、夢だからバカなんだ。
けれど夢のお陰で、幼いころは自分には両手があったことを思い出せた。
いつから、どうして、僕は両手を失ったのだろう。
事故かなにかだっただろうか。失った日は幼すぎて遠すぎて、なぜだか思い出せない。
僕はベッドから身を起こして、両腕を突き出してみた。
肘から先は失われている。
何がつかめると言うのだろう。
バカバカしいと思った。
ベッドから降りて、着替えのための呼び鈴を鳴らした。
もし、肘から先があったなら、この輪っかは手で掴んで鳴らしているはずだな、なんて思ってしまって、なんだかおかしくなった。
不便を感じる日々じゃないじゃないか。
部屋の扉が開いて、いつものように、メチルが着替えをもってやってきた。
「アトさま! おはようございますー!! 今日はいよいよ運命の日ですよっ!」