016. 外からの客
「アトさまー、私、買物失敗しちゃいましたかね~」
メチルが、黄緑色のシミが点々と飛び散ったテーブルクロスを運びながらため息をついた。
メチルがため息なんて珍しい。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。あ、でも、大丈夫だよ」
アトは、フォエルゥを足で器用にブラッシングしてやりながら、ようやく答えてみた。
足を使っているのは、義手を再び洗濯するべくとり外したからだ。
朝にカエルの体液まみれになり取り外された義手は、学校から帰った時点で洗濯され、きれいに乾いていた。
夕食時に必要不可欠だから、メチルに手伝ってもらって身に着けなおした。
今日の夕食は、みたことも無い色とりどりの果物が盛り込まれていた。外の町から来た商人から買ったものだ。
今日は珍しい食事だから皆で食べようと父が声をかけた。
だから食堂には、メチルも、メチルのお母さんのマチルダも、メチルのお父さんのグィンも、庭師のデルボも、サルトも、物知り博士のオクロドウさんたちも・・・とにかく、まるで建国祭の日みたいにみんなが集まり、一緒にテーブルについたのだ。
が。
スープで煮込まれた星型の果物らしきものが、次々とポンポン派手に音を立てて種を飛ばして爆発しだし、頭の先から何から、当然テーブルクロスも、信じられないことに高いはずの天井にさえ黄緑色のシミがついたのだった。
というわけで、アトの義手も本日二回目の洗濯を待っている。
「アトさまっ! 返事までの『間』が長いですっ」
「・・・・・えっ・・・・ご、ごめん・・・・」
正直、アトにはどう答えて良いのか分からない。
「えっと・・・あ、フォエルゥのブラッシングが終わったら、僕もそっち手伝う、ね」
「いいですよ、アトさま、今、義手外してますし」
メチルは再びため息をついて、洗濯場へと歩いていった。
正直、買物は全然失敗じゃないと思うんだけどなぁ。
声には出さず、心で話すように、アトはフォエルゥのブラッシングを続けた。
・・・もしメチルが買ってなかったら、食べてみたかったのにと残念に思ったんじゃないかな、僕。
フォエルゥが、クフゥ、と、鼻息を鳴らして、アトをチラっとみた。
肯定されたように感じて、アトは続けて心でのみ思った。
だから、メチル、失敗じゃないと思う、僕。
ふと、アトの心が、何かをアトに囁いた。・・・何だろう? 何かの違和感?
ブラッシングの足を止めて、フェルウに足をかけたような状態で止まったまま・・・アトは自分の心の状態を確認ようとした。
キーは・・・珍しい果物。
そう、「とてもびっくりはしたけど 試してみることができたこと。 それは 失敗じゃない」と思うこと。
アトは、自分の中の呟く自分の声に気がついた。
僕はこう思っている。
”せっかく 珍しい果物が売られているのに ただ見るだけで 買いもせず 食べてみようともしないなんて”
”せっかくのチャンスを見逃すなんて・・・・・” ?
アトは、横においていた自分の問題を思い出した。
そうだ、僕は、すぐ旅に出ろと今日告げられたのに、旅に出ることを嫌がっている。
そんな事を考えたこともないからと。
でも・・・・。
あぁ、なんかでもよく分からない!!
フォエルゥがノソっと起き上がり、ブルブルっと身震いしてアトの足を振るい落とした。
「あ、ごめんごめん、フォエルゥ」
アトも一緒に立ち上がる。
その時、バタン、と扉が開いた。
庭師のデルボが立っていた。
「あ、アトさま! イングスさまかグィン、ここに居ませんかい!?」
「ここには居ないよ。」
チラっと、隣の部屋-食堂に続く扉も見て、続けた。「食堂にももう居ないよ・・・どうしたの?」
デルボは慌てているように見える。
「今、玄関に、あの外の商人が来てるんでさぁ!! でも、何言ってんのかさっぱり・・・」
「? 酔っ払ってるの?」
「いや、すげー真剣な顔して、なんか怒ってるみたいで・・・。サルトが、外の者は話す言葉が違うんじゃないかって。イングスさまどこ居られるんでしょうね?」
デルボは顔をしかめた後、救いを求めるような顔をした。
「自室かな? 僕も探すね」
「おぅ、頼んますぜ」
ガフゥッとフォエルゥが啼いた。
僕の傍について、一緒に歩こうとしている。
「フォエルゥ。父上を探そう」
グルゥ。
フォエルゥは、先に歩き出した。
階段を降りようとしている。
ん?
階段とは反対側に進みだしたデルボに、僕は声をかけた。
「デルボ。父上、もしかしてもう玄関に行ってるよ」
「え?」
玄関に、多分、父の居る気配がする。
そしてきっと、会話をしている。




