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014. 閉店

もう夕暮れ。

行商人の店の品物は、全てではないが、残すところ3分の1ほどに売れた。

残りは、明日の朝に売れるかもしれない。

手伝いをしてくれた八百屋の女性は、仲介料兼手伝い料を持って、すでに帰って行った。

言葉は分からないが、きっと「今日はここまで」とか「もうこれで大丈夫」とかそういう事を言ったのだろうと思う。


少なくとも父親の機嫌は悪くなくて、息子のふりをしている娘は、そっと安堵の息を漏らした。


 パタパタ・・・


この町の石畳を駆ける音が近づき、ふと顔を上げると、本日『通訳』としてとてもお世話になった少年が、カバンのフタをパカパカさせながら笑顔で走りこんでくるところだった。


「ただいまー!」 その少年はにっこり笑った。「売れたね?」


「う、うん・・・」


「ご飯はどこで食べるの?」


父親が口を出した。「坊や、今日は有難う。このお金、どこで換金できるんだ?」


少年は突然の会話の参入に驚きつつ、「えーと」と言った。「ローサおばさんが換えてくれないかな?」


「換えてくれない」


「えーと・・・お金・・・わかんないや、イングス様のところに行けば教えてくれるんじゃないかな。何だってできるもの」


「イングス様?」父親は眉をしかめた。「誰だ・・・聞いたな、あぁ、この町の領主だったか・・・」


少年はにっこり笑った。「うん、アト様のお父さんだよ」


「アト様? 誰だそれは」


少年はきょとんとした。「イングス様の子どもだよ」


父親は小さく「チッ」と舌打ちした。話にならない。この子は言葉は分かるらしいが、頭は悪いらしい。


息子のふりをする娘が、「どうするの?」と遠慮がちに父に聞いた。

思わず女口調になってしまったのに気付きハッと父親の顔色を見たが、幸い気付かなかったようだ。

娘はまた静かに気付かれないように安堵の息を吐いた。


「ねぇ」少年が、やっぱり不思議そうな顔をして、聞いてきた。「お腹すいてるでしょ。」


「え。」

確かに満腹ではないが、空いているでしょといわれるほど、ひもじい顔をしている自覚は無い。


「僕、これから食堂に夕食を食べに行くよ。一緒に行く? おいしいよ。」


父親の顔を見たが、父親は顔をしかめた。

「領主様の家に案内して欲しい」


「やだ。お腹減ったもの。」 少年ははっきり素直に答えた。娘は内心のみで非常に驚いた。

少年は少し苛立ったみたいだった。

「イングス様の屋敷は、この道をずっと上に上に行ったところにあるよ。迷ったら、高くなってる方の道を進むとつくよ。ご飯、どうするの?」


父は、少年と、息子のふりをする娘の顔を難しい表情で見比べた。それから娘に目を留めて言った。

「俺は先に金を換えてくる。お前は・・・そうだな」

今度は少年に目線を移した。「コイツを夕食に連れてってくれ。質素なものを。あまり食べさせないでくれ。」

父親は、息子のふりをする娘に小銭を幾らか渡した。「物価が分からん・・・これで足りるな?」

少年はその金額を見て、「ちょっと足りないよ」と注意した。「夕食にはあと10ガルいるよ」

「10ガルは何リュークだ」

「うーん、分かんない。でも、20年前は、30ガルが20リュークだったよ」

「20年前?」

「大きく変わったって話は、僕は聞かないよ。聞かなかったからかもだけど」

「誰に聞いたんだ?」

少年は、じっと父親の顔を見た。少年は実に真剣な表情をしていた。真っ直ぐ目を見て、少年は言った。

「秘密」


父親は、なぜか怒り出さなかった。


父親は息子のふりをする娘に、さらにコインを10枚渡した。

「『ダロン』、じゃあ、これで食って来い。

 分かってるな、気をつけろよ。食ったらここに戻って待ってろ。」


息子のふりをする娘はただ頷いた。『ダロン』というのは、仮に与えられた男の名前だ。




幌馬車で領主の屋敷へ向かった父を見送ってすぐ、少年に声をかけられた。

「じゃあ、ご飯食べに行こうよ! 『ダロン』?」


「う、うん」


少年はにっこり笑った。「『ダロン』って、すごく可愛い名前だね! ダロンって、綺麗な顔立ちしてるね!」


心臓が止まるかと思った。表情が強張った。


それに、少年の方が驚いたようだった。「えっ、ごめん・・・ えっ、キミ、男の子なの・・・?」


コクコクと、男を装う女の子は頷いた。


少年は、シパシパと目をしばたいた。茶色の大きな瞳だった。

「・・・。『ダロン』は、女の子だよね? 僕、間違ってる?」


間違ってない。間違ってないけど・・・。

ダロンは、どうしていいのか分からなくなった。


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