013. 行商人の店
アトが学友のアルゲドとトルカとキロンと共に、帰り道に町の広場に向かうと、普段と違う賑わいがあった。
「なんだ?」真っ先に、背の高いキロンが呟いてその賑わいの中心を確認しようとした。
「メチルがいる」アルゲドがキロンに確認するように言うと、キロンは言葉を話さなくなった。
「・・・・・・」
アトたちはキロンをそっとしておいた。
キロンは幼いころからメチルが好きだ。皆はすでに昔、散々キロンをからかった。
その結果、一切キロンが口をきいてくれなくなり、皆で深く反省して深くお詫び申し上げた経緯がある。
皆よりは目が悪いトルカが質問した。
「メチルが何かやってるの?」
「違うみたいだ」アトが答える。「学校帰りに立ち寄ったんだと思う。メチルも」
「珍しいな」キロンが口を開いた。
「何が?」とトルカ。
「人が、町の外から来たようだぞ」
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買い物客、というよりも、見物客がたくさん居た。
アトたちも混ざった。
店の中央に、八百屋のローサさんが居て、皆に声をかけている。
右側に、見知らぬ、アトの父親ぐらいの年齢の、ヒゲ面でターバンを巻いた男性が、妙に沈んだ顔で、手で品物をすすめるようなジェスチャーをしている。
ひどく照りやかな緑色の果物。
美しい曲線の黄色い果物も。
甘く不思議な香りがする。
つぶつぶが沢山ついている細長い果物もある。
やはり授業帰りらしい、学校鞄をかけたままのメチルがアトたちを見つけた。
「アトさま!」
にっこり嬉しげに笑う。
「メチル」
アトは、直感した。メチルは、ただ見ているだけでなく、これらを買いたがっている。
「何か買うの?」
「そうなんです! 今日の晩御飯にしてもらおうと思って! アトさま、どれが食べたいですか?」
「・・・・うーん・・・・」
「私ね、アレが気になるんです!」
メチルは、深いルビーの色をした、ギザギザした果物を指した。
「星型みたいで、可愛いですよね!」
「うーん・・・・」
見たこともない形状である上に、いやに濃い色の果物。
一体美味しいのだろうか・・・。
アトは口には出せず、思った。
「アトさま、荷物、一緒に持ってもらえます?」
メチルがアトを真摯な顔で見つめた。「皆の分買うと、一人で持てないかも・・・」
「あ」
アトは返答を迷った。
「今・・・」
義手を外して来ている。持てれば良いのだが・・・一体メチルがどのぐらいの量、アトが持つことを期待しているかを測りかねた。
「あ」
メチルが気付いた。
「そうでした・・・」
「俺らが持ちますよ」
背後から、アトとメチルより背の高いアルゲドが声をかけた。「なぁ。」さらに背の高いキロンを振り返る。
キロンは、コクコクと真顔で頷いた。
なお、トルカは見物客に紛れ、髪の端だけが見える。
「え、そう? ありがとう!」
パァっとメチルの顔が明るくなる。
「やったぁ! じゃあ、お願いします!」笑って、ローサに注文を繰り出した。
「ローサさん、私 買いまーす!! その、星型の・・・それそれ! それ15コとー!! その隣の・・・それじゃなくて、あ、でもそれも3コー!! でー・・・・」
メチル・・・食べ方とか分かるんだろうか。
アトは、心の中で呟いた。
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どうやらメチルが皆の購買意欲を刺激したらしい。
見物していた客も、小口ながらも、珍しい品々を購入し、それぞれ家に戻っていく。
店の傍ら、噴水の近くで、メチルとアトたちは、それぞれ持てる範囲で変わった風合いの果物を持った。
「皆、ありがとう! お願いします!」
メチルはとても嬉しげに楽しげに、先頭をルンルンと歩き出した。
その横に、さりげなく皆で、口を開かなくなっているキロンを並ばせ、ゾロゾロと居城へと歩き出す。
「ん」
小さな呟きが聞こえて、アトは後ろを振り返った。
トルカが、人がまばらになった、行商人の店を振り返って見つめていた。
トルカは、アトの視線に気がついて、アトと、さらにそれに気付いてやはり振り返っていたアルゲドの方に顔を向けなおした。
「あ、ごめん」
「どうしたんだ」
アルゲドの言葉と、アトの疑問の眼差しに、トルカは答えた。
「あのコがこっちを見てたんだよ」
あのコ? アトは、もう一度行商人の店を見た。
先ほどは見落としていたらしい。ローサさんの左側、自分たちと同じような年頃の若者が居た。
馬車の影に沿うように立っていた。
「なんか・・・羨ましそうな・・・暗い目で見られてた」
皆より目の悪いはずのトルカが、言った。




