011. クリスティン
イシュデンの床屋の息子― クリスティンは、半開きのままのカバンをかけて、家を飛び出した。
また忘れてた!
バタバタっと駆け出してから、ふと立ち止まる。
ええと・・・学校って、どっちだっけ?
左右をキョロキョロ見渡してから、噴水の優美な曲線にまた見惚れ、しばらくじーっと見つめてしまう。
「クリスティン」
「はい」
八百屋のおばさんがクリスティンに声をかけた。
「あんた、学校にいくのにまた迷子かい。あっちだよ。急ぎなさい、もう授業の半分終わってるんじゃないのかい」
「あっ」
クリスティンは思い出した。
両親ともが店に出ていて、クリスティンは家で時計を見て学校へ出るのだが、だいたいのところ毎日、時計を見るのをうっかり忘れてしまう。
思い出したときには、すでに3つある授業の2つめが始まっている頃合だった。
クリスティンは走り出した。
「困った子だねぇ・・・」ローサおばさんの嘆息が聞こえる。
クリスティンはニヘラっと笑って、「行って来ます」と、すでに後ろになったおばさんを振り返り・・・。
パタっとクリスティンは立ち止まった。
空に、鳥がたくさん舞っていた。青い空に白い鳥が美しい!!
「どうしたんだい」
ローサは眉をひそめた。後ろを振り返ってみたが、普段と変わりはない。
「あんた、学校に行くんだろ。急ぎなさい」
パッとクリスティンは走り出した。
「えっ、待ちなさい! どこに行くの!! 学校はあっちよ、あっち!!!」
ローサおばさんが驚いてついてくる。
クリスティンの耳にはローサの声は入らない。
クリスティンは喜びの奇声を発した。
「何か来るー!! 外から、何か来てるー!!!」
「ええ!?」
ローサは、クリスティンが門に向かっているのだと気がついた。
全くこの子は!! ロバートたちはなんだってこの子を一人にさせておくのか!
ローサは、思い浮かべたクリスティンの両親を非難した。
クリスティンは知っていた。
耳に届いく音は「今まで知らない音」であることを知っていた。
角を曲がると、案の定、今まで見たことのない形の馬車が、今まで会ったことのない人たちをのせて、門をくぐりこちらに向かうところを見た。
キヤァ、とクリスティンは奇声を発して喜んだ。
息切れしつつも、ローサが、町の一番外側の家の角を曲がった時、そこには大きな幌馬車が留まっていた。
馬車の周りをピョンピョン跳ね飛ぶクリスティン。
全くこの子は!
一方で確かに、ローサも外からの者に興味がわいた。
「あなたたちは誰だい」
自分と同じぐらいの年代の男が、答えた。「△*◎×□・・・・」
「えぇ? 何ていったんだい???」
ローサは困惑した。なまりが酷いにしてもあまりにも何を話しているのか分からない。いい大人なのに、きちんと話せないなんて?
代わりに答えたのはクリスティンだった。
「果物を売りに来たんだって! 織物とかもあるって! 見せて!見せて!! ◇○%#@!! ◇○%#@!」
最後の方は、男に向かって話しかけていた。
ローサはあっけに取られた。




