100. ザティ
「あっ、アトだ!」
ザティがすぐにアトが出てくるのを見つけて呼んだ。
アトはアルゲド、キロン、トルカとよく一緒に行動しているが、ザティはあまり群れるのを好まないタイプで、仲は良いが、こんな風にここにいるのはちょっとめずらしい。
「あ。アトー」
アルゲドやキロン、トルカが一斉にアトを見つめる。トルカはフォエルゥにベロベロに舐められているところだった。
そばに行くと、非常に真面目にアルゲドが言った。
「学校、さぼりやがったな」
アトは今気がついて眉をしかめた。
そうだ、夕方まで寝ていたという事は、昼から始まり夕に終わる学校を、すっぽり丸まるさぼったというでもあった。
「本当だ・・・。忘れてた。実は、夕方ぐらいまで寝てしまってたんだ」
「自分だけさぼるとはずるいぞ」
非常に真面目にアルゲドが言った。
アトは苦笑いをした。
「宿題は出た?」
答えたのはザティだった。「今日は、学校はあったけど、授業はしなかったんだよ」
それにトルカも続いた。「今日は、外の商人の子を皆で探してた。まだ皆で探しててさ。」
あぁ。
アトはうなずいた。
そうか、町で探していると、メチルも言っていたし、父の手紙にもあった。
本当に町全体で探しているのだ。
「そっか・・・」
アトは、じゃれついてきたフォエルゥを義手で撫でてやろうとして、自分が今も、左に手紙、右に胸像を持ったままだと気がついた。
アルゲドが眉をしかめた。
「何もってんだ、それ」
手紙は一目瞭然だから、『それ』が指すのは胸像の方である。
アトが答える前に、ザティが当たり前のように答えていた。「居なくなった子の像だよ。『セレスティン』、たくさん彫ったんだね・・・」
アトは自分の右手にある胸像を持ち上げて見直した。驚いてザティに尋ねる。
「皆も、持ってるの?」
ザティがアトを真正面に見て、首を振った。
「皆じゃなくて、1つ。学校で、回して見たよ。この子を探します、って、エルテアス先生が持ってきた。ルナード先生から借りたみたいだから、先にルナード先生のクラスが見たんだと思う」
ちなみに、エルテアス先生がアトのクラスの先生で、ルナード先生はアトたちより年下のクラスの先生だ。
なお、クラスは年齢別で、だいたい3歳分がまとめられて1クラスになる。
「『セレスティン』て器用だったんだね。僕らが学校で見たのと、そっくり」
トルカが、アトの右の義手の中の胸像を見て言った。
「すごいな」
「『セレスティン』の家からいなくなったんだろう? アイツ、何かしたんじゃないのか」
アルゲドが冷たく言った。
アトは、今朝の『セレスティン』―本名クリスティンの様子をありありと思い出した。
今までかばった事はないが、この言い方は妙にこたえた。
「あの、さ」
言いにくそうにアトは口を開いた。「どうしてるの、その、『セレスティン』」
「家に居るよ」
なぜかザティが怒っていた。
「あのさ、俺、セレスティンの事は好きなんだ。変わってるけど、悪口言うのは止めてくれ」
驚いて皆がザティを見た。
たぶんメチルの存在を意識して全く口を開いていなかったキロンが、思わず口を開いた。
「アイツと、仲、良いの!?」
「仲が良いとか悪いとかじゃないよ。アイツはアイツで良いヤツだよ。いつも一生懸命だし。まぁ、確かに馬鹿だけど― 感性は飛びぬけてる。その像だって、そうだろ」
今ならアトも同意できたが、今まであまりクリスティンに関心がなかった上に、どちらかというと下に見ていた手前、なんだか皆の前で素直にザティに賛同できなかった。
「なんで家に居るんだ。アイツ、本当に探してるのかよ」
アルゲドが刺のある言い方をする。
「そこのあたりは、俺も知るかよ。だからってただ泣いてるだけじゃないだろ。知るか。
とにかく、知らないのにいうのは止めてやれよ。
もし本当に泣いてるだけだったら、それが分かった時に言えばいいだろ」
「えーと・・・ごめん」
謝ったのはトルカだった。「ごめん。ここで止めとこうよ」
アトにもキロンにさえも目を見られて、アルゲドはしかめっ面をした。「分かった、ごめん」
アト自身もクリスティンについて認識が改まった事をここで言いたい気持ちにはなったが、アルゲドをいきなり裏切るようで言い出せなかった。
アトは、言い出せない自分自身についてそっとため息を漏らした。
確かに、クリスティンは、何かクリスティンによる方法で、一生懸命居なくなった子を探しているのに違いないと思った。
「俺たちさ」
ザティがアトを見つめなおして、言った。
「石見の鏡とか周辺も、探そうと思って」




