001. 予言-前日
世の中の理屈は分からないが、ある時 父に「明日、石見の塔に行きなさい」と言われた。
人間には一生に一度、自分の運命を告げられる日がある。
人によって時期が異なるけれど、大概は親や保護者から告げられる。
けれど まさか こんな前触れもなく告げられるとは思わなかった。
父の敷地の 北西に 石見の鏡といわれる池がある。時々霧がかかって何も見えなくなる。結果として迷った挙句に池に落ちて命を失う…という事故も起きてしまうから、あまりその近辺には近づかないように町の皆も言われている。
けれどそこには不思議なものがたくさんあって、三つ頭の鹿や、赤い小さな実を栽培する蜂や、蛇を飲み込む花や… そして不思議の最たるものが、池からさらに北西に行ったところに建っている石見の塔だった。
運命は そこで告げられる。
人間は そこに 一生に一度 自分の運命を知るために 赴く。
一生に一度だけ そこに 入れる。
なぜだか扉はいつも閉まっていて、「その時」以外は、決して開かない。
槍で突こうが、爆薬を仕掛けようが。何をしようが。
幾世代も幾世代も それらは例えば勇敢な子どもたちによって試されたが どうあっても「その時」以外は開かないらしい。
明日か、と、僕は思った。明日、僕に、あの扉が開かれる。
誰かに告げたいと思った。
けれど、もう町で遊ぶには遅い時間で、かつ、すでに皆と別れてきた後だった。
この時間から町へと再び降りても、もう皆それぞれに戻り、眠りさえしているだろう。
そこで、身の回りの世話をしてくれているメチルが、僕の着替えを運んでいく時に、メチルに言ってみた。
「ねぇ、明日、明日、石見の塔に行けって言われたんだよ」
僕より少し年上のメチルは、目を丸くして、「まぁ」と驚き、ちょっと羨ましそうに言った。
「それはおめでとうございます。・・・私はまだなのです。私も早く行きたいです」
「うん」
「アトさま、私の祖母は、もう90になりますが、祖母は一度も石見の塔に行ったことがないのです」
それには驚いた。
メチルは続けた。
「祖母は、『もしかして、塔に一度も行くことができず、死んでしまうかもしれない』と言うのです。でも、そんなことってありえないですけれど」
「そうだね」
「とにかく、アトさまは 早くに行けて良かったですね!」
「うん。ありがとう」
メチルは部屋を出て行った。
メチルはおしゃべりをよくして行くけれど、メチルの祖母の話には正直とても驚いた。
メチルが出て行ってから、僕は気付いた。
90を超えた老婆に、誰が「塔へ行け」と告げるのだろう?
90を超えた老婆には、親か保護者など・・・もう亡くなっていていないだろうに。
明日、石見の塔に行って、メチルの祖母のことを聞いてみよう、と僕は思った。
みんな、代々聞いて知っている。
石見の塔には、不思議が詰まっている。
石見の塔には、運命を告げる老婆がいる。
僕は明日 その老婆に会いに行く。