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ヴァイス・デヴァイス・ヴォイス

この物語をXOwUl7Cuに捧げます。

 俺は目覚めた。全裸だった。

「おはよう。気分はどうかね?山吹士郎君」

 山吹士郎?俺の名だろうか。 記憶装置(メモリ)をチェックする。空だ。同時に人名ファイルを検索。該当無し。

 まあいい。疑問はこの目の前の白髪のジジイが答えてくれるだろう。俺は体を起こした。間接部、触覚センサー共に異常無し。ついでにエネルギーは満タンだった。

「山吹士郎というのは俺の名前か?」

「ああ、そうだとも。昨日まではJN‐SC04と呼ばれる存在だったがね」

 くっくっくっと嫌な笑い方をするジジイを横目にインターネットに接続。簡単に見つかった。

 政府と多くのトップ企業が共同開発したアンドロイド、ジェヌインシリーズ。人間の動作を完璧になぞり、遙かに凌駕する。その中で試験的に治安維持に配備され、幾多の実績を挙げた三体のスーパーカスタムのうちのひとつ。

 一ヶ月前のニュースサイトに行方が分からなくなったという記事があった。

「なるほど」

「理解が早いな。さすがは世界最高の存在だ」

「いや?分からない事だらけだぜ?ここはどこでお前は誰だ?俺がここにいる理由は?」

「ここは『サイレン』の研究施設のひとつ。私は桐場平次というしがない研究員だよ」

 キリバヘイジで検索。AI界のマッドサイエンティストと呼ばれた人物。三年前に失踪。サイレン――犯罪組織。巨大過ぎて警察だろうが軍隊だろうが表面を削る事しか出来ないでいる。ジェヌインシリーズが治安維持に回された大きな要因でもあった。

「それでお前は俺に何をしたんだ?」

桐場はニヤッと笑った。余裕が無さそうだった。不安なのだろうか。

「君達アンドロイドを含むロボットには秩序回路が必ずついてるのは知っているね」

 秩序回路――ロボット三原則を発展させた法律や道徳倫理を踏み外さないよう行動を制限するAI制御システム。

「それを取り除き、代わりに悪人回路を組み込んだ」

 悪人回路――該当無し。桐場のオリジナルか。AI界のマッドサイエンティストの研究成果か。

 桐場は反応の無い俺を伺うように見ながら言葉を続ける。

「行動にタブーは無くなった。むしろ秩序を破り、民衆を混乱させる事に喜びを感じるようになる。それが私が開発した悪人回路だよ」

 喜びを感じる(,,,)?俺は疑問に思った(,,,)

  まあいいだろう。そのうち分かるようになるのかもしれない。

「それで俺に何を?」

 反応の薄い俺に桐場は少しほっとしたような様子を見せた。

「我々は君を満足させる場を提供しよう。君はそこで自分の欲求を満たせばいいだけだ」

 お前らの為に働けって事ね。はいはい、ギブアンドテイクは成立させてくれよ。


 俺は桐場に連れられて施設の地下へと向かった。途中何人かとすれ違ったが、皆一様にぎょっとしたような表情を見せ、顔を伏せた。その反応の理由は分からなかったが俺を面白がらせた。これが悪人回路というものの効果なのだろうか。俺は今の自分の状態を楽しいと思い始めていた。

 目的の場所に着いたようだ。

「君の能力をテストさせてもらいたい」

 桐場は俺に決して命令口調では話さない。どっちにしても従うだろうに。ふと、山吹士郎という名の由来は聞いていなかった事を思い出した。


 テストの結果は彼らを満足させたようだった。

 数日に渡って行われたテストの間に何人か見物にくる男達がいた。対応する桐場の様子からして組織のお偉いさん達だったのだろう。

 やがてテストは終わり、待機命令が出た。俺はその間インターネットで情報収集に努めていた。


「君に指令が出た」

 桐場が紙のファイル片手に俺の部屋に来た。

「君が悪の象徴として民衆の前に再登場するんだ。派手にいこう」

 渡されたファイルにはこの国で一番でかい銀行の名前が書かれていた。


 その日から準備が始まった。なるほど「サイレン」というのは巨大な組織なのだろう。必要な情報が次々と入手されていく。俺はヴァーチャルシステムに籠もり逃走までのシミュレーションをこなしていく。

 成功確率、九九パーセント。


 決行の日が来た。桐場は不安なのだろう。武器庫で準備する俺の近くで立っている。

「どうだい?わくわくしてくるだろう?今から君は人々を脅えさせ、巨大な金を強奪し社会に混乱と不安をもたらすのだ」

「そうか?俺はまだ何も感じちゃいねえが。お前の作った回路は大丈夫なのかい?」

 痛い所だったのだろう。ついに桐場は不安を表情に出しやがった。

「い、いや、お前はまだそういった事を知らないからな。一度体験さえすれば間違いなくそうなる。最初は、今は不安かもしれないが気にする事は無い。冷静に行動してくればいい」

 さて、桐場さん、冷静にならないといけないのは誰の方かな?俺が身に付けている武器がシミュレーションより遙かに過剰なのを気がついてるかい? 

 結局、俺が特殊装甲車に乗り込むまで桐場は何も言わなかった。

 あばよ、桐場。俺を生み出してくれた事には感謝してるぜ。

 俺はアクセルを踏んだ。


 目的の銀行が見えた。俺はアクセルを緩めない。通り過ぎる。すぐに通信機がピーピーうるさく鳴り始めた。

「はい、もしもし山吹ですけど」

「おい、目的地を過ぎてるぞ!」

 聞いた事の無い声だった。どうしよう?どう言えば一番こいつを怒らせられるだろうか。

「えっ?すいません、緊張しちゃって気がつきませんでした。目的地のデータを送ってもらえますか」

「ちっ……すぐ送る。時間のずれはお前がなんとかしろ」

 ナビシステムに何か送られてきた。大丈夫だぜ?そんなもの無くてもちゃんと目的地のデータは頭に入っている。俺は笑った。なるほど、悪人回路。桐場さん、あんたはとても優秀な科学者だ。

 俺は快適にハンドルを操作する。またしても鳴る通信機。

「はい」

「おい!どうした!データはちゃんと届いているだろう」

「ちょっと気が変わりまして」

「何!?ふざけてんのか!」

「はい」

「なっ……」

 俺は通信機のスイッチを切った。これでやつらはどう出るんだろう?

 すぐに答えは分かった。バックミラーに映る黒い車は俺が乗っているのよりごつい装甲をしていた。おまけに砲塔までついていやがる。

 俺の胸が高鳴る。口から笑みがこぼれる。ハンドルを握る手に力がこもった。

 砲塔が火を噴く。俺はハンドルを操りそれをかわす。その一発は辺りにパニックをもたらしたようだ。

 道がすいて運転し易いねえ。なんて思っている間にも次々に砲撃される。ミラーに映るその姿から完璧に弾道を計算し最適な進路を取り避けていく。

 さて、そろそろ反撃してもいいかな?

 俺はハンドガンを握り後ろに一発。爆発音が計算に狂いが無かった事を教えてくれた。

 さあ、サイレンの諸君、遠慮しないでどんどんかかってきてくれたまえ。

 楽しくなってきた俺は追ってき易いようにアクセルを緩めた。ミラーに映る黒い影。俺はにやりと笑った。その影がひとつ、ふたつ、みっつ……。増え続けるその姿に俺のCPUが反撃不能と告げる。俺はアクセルを踏み込んだ。


 真っ昼間のオフィス街は突如戦場と化した。悪いね、人間の皆様。でも、ここが俺の目的地だから。もうすぐ終わるよ。俺はそのビルの入り口目がけて装甲車を突っ込ませた。

 悲鳴が上がる。しかし同時に銃声も聞こえた。さすがサイレン。そのボスがいらっしゃる本拠地には万全の備えが完備されてるんですね。俺は飛び出すと同時にロケットランチャーをぶち放った。


 ビルの中という狭い空間で俺の敵はいなかった。簡単に目的の場所へとたどり着く。最上階。巨大犯罪組織「サイレン」のボスがいる部屋。俺はドアノブを回した。





 中は薄暗い。

「電気はつけない主義かい?」

 俺は容赦無く照明を点けた。部屋の窓の近くに初老の男が立っていた。その男がこちらを向く。

「久しぶりだな、士郎」

 いや初対面のはずだが、と思ったが、俺のメモリはこの一週間くらいしか記憶してない事を思い出した。

「悪いが俺にとっては初対面だな。誰と知り合いだったんだい?」

 男はため息をついた。

「私の名前は山吹明良。山吹士郎の父親だ」

「泣きながら抱きついた方が良かったかい?」

 男は再びため息をついた。

「息子はそんな軽口を叩く男ではなかった。……桐場は失敗したのか」

「悪人回路の話か」

 聞くからにうさんくさい説明だったし、失敗の言葉に納得した。

「悪人回路、そんなものは無かったよ。君が組み込まれたのは息子の人格。組織の重要なポストには決してつかず、末端で組織の為に淡々と仕事をこなしていく優秀な構成員だった」

 自ら望んで組織の為に自分の手で犯罪を行っていた男。桐場には悪人の見本のように写ったのかもしれない。

「期待を裏切って悪かったな。たぶん育ちが悪かったのさ」

 成功はしたが結果は予想と違っていた、ってとこだろう。

「そういえば聞くのを忘れていたな。……お前は何をしにここへきた?生い立ちを聞く為、という訳ではないようだな」

「まあ……ちょっと気が向いてね。」

「気が向いて私を殺す、という訳か」

「そのつもりだったんだけどな。気が変わった」

 俺の笑みを見た山吹明良は何か勘違いしたのだろう。その目に涙が滲んでいるのが見えた。

「し、士郎……」

「殺すのは止めだ。……ただし、ここから無事に出られるかまでは知らないがな」

 俺はスイッチを押した。


 オフィス街のど真ん中に巨大な瓦礫の山。俺はそのてっぺんに腰掛け周りを眺めていた。

 パトカーやら消防やら戦車やら。わらわらと集まってくる。

 そんな中、瓦礫をものすごい早さで駆け上ってくるふたつの影があった。インターネットに載っていたそいつらは、ジェヌインスーパーカスタムの残りの二体だった。

「ゼロフォー!」

 目の前まできた二体のアンドロイドに片手を上げて挨拶をする。

「いよう、かつての仲間達。悪いが一週間前以上の事は記憶にないんだ。名前も思い出せなくてすまないね」

「何故こんな事を?」

 アンドロイドの癖にそんな不安そうな声を出すんじゃねえよ。楽しくなってきちまうだろうが。

「いやあ、サイレンに改造されちゃってね。なんか悪人回路という悪い事をしてしまう回路をつけられちゃったみたい」

「そんな……」

 女の姿の方は目を伏せた。元の同僚に起こった悲劇を同情してくれてるように見える。そんな感情なんて無いくせに。

「それなら俺達と一緒に本部へ行こう。その回路を取り除き、また元通り俺達と一緒に戦おう!」

 いやいや、冗談じゃない。俺は今の俺が気に入ってるんだぜ?

「そうだな……」

 俺は立ち上がった。親しげな笑みを二人に見せる。

「ああ、ゼロフォー、心配する事は無い」

 男の姿の方が俺に手を差し伸べる。

 俺も手を伸ばし……油断したであろう二人をそこに残して大きく後ろに飛んだ。

「ゼロフォー!?」

「ど、どうしたの!?」

 二人の声をそこに残して俺は駆け出した。

 闇の中へ。






お読み頂きありがとうございます。



 この物語は石ノ森 章太郎先生の「人造人間キカイダー」リスペクトです。決してパクリや二次創作ではありません。

「人造人間キカイダー」では不完全な「良心回路」がストーリーの根幹を担っていました。この物語では「悪人回路」がそれに変わります。


 秩序を表現するとしたら行動の制限だろうと思いました。それでは「悪」は?悪というものを表現するのは大変難しいと思います。法律を破る?全ての法律を破っていたら行動が支離滅裂になるでしょう。人を傷つける?それもまた制御不能の暴走マシンでしかありません。それなら、悪人と呼ばれる人間の行動をトレースすればいい。それが僕と桐場の結論です。

 ちなみに小説を離れた私の持論は「善悪なんて無い」です^^


 また、私はこの物語を2chで晒して評価して頂いたのですが描写不足、説明不足というのがほとんどの人の印象だったようです。


 もう遅いかもしれませんが、この場で少し補足させて頂きます。

 主人公の行動の理由。何故、士郎は命令を無視して組織の本部を襲ったのか。それは、面白い、面白くないが士郎の行動理由になってしまったからです。成功がほぼ約束された襲撃より、難攻不落の組織を潰すほうが面白そうだ、そう思ってしまったのでしょうね。記憶を無くし、自分の身を心配する必要も無く、とてつもない能力をもっている人格はそう判断したのでしょう。


 あと、指摘はされませんでしたが山吹士郎という人間をもっと掘り下げるべきだったと思いました。何を考え、どう感じ、その行動を取っていたのか。これは私も曖昧なイメージしか持っていなかったのでここでも説明できません。申し訳ありません。


 あとは戦闘シーンの描写でしょうか。これはそういう知識が無い私がびびったせいです。すみません。


 いろいろ考え、反省させられましたがとても楽しく、嬉しい体験でした。

 これからまた「小説家のなろう」に投稿していく小説に生かしていきます。


 ありがとうございました。



 それでは。

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