二人分の時間
夜が明け、瑞穂は母親と電話をしていた。
「もう二人の惚気話は聞き飽きたから」
母親から、いつも聞いている話をされ、瑞穂は呆れたように笑った。
「うん、仕事の方も大丈夫、心配しないで。じゃあ、またね」
瑞穂は電話を切ると、パソコンに向かい、プログラミングの勉強を始めた。
本音を言えば、池斗のことはまだ悲しい。しかし、それは今、池斗がいないことについてだ。
池斗と不思議な時間を過ごせたことは、瑞穂の中で、大切な時間になっている。あの時間が本当にあったものなのか、信じられない気持ちもあるが、池斗が残したミサンガを見る度にそれも薄れていった。
最後の時、池斗に時間をあげると言った瑞穂。
そして、瑞穂から時間をもらうと言った池斗。
あの言葉のおかげで、瑞穂は二人分の時間を過ごしている気分になっている。
また、池斗のおかげで変わったこともたくさんあった。
その時、瑞穂の電話が鳴った。
「はい、もしもし?」
「西条さん?」
「あ、虎島さん?」
「急で申し訳ないけど、今から来られないかな? 会社の人と決起会も兼ねた忘年会をやるんだ」
虎島の言葉に瑞穂は少しだけ驚いた。
「私が行っても良いんですか?」
「正式にはまだ社員じゃないけど、単なる飲み会だし、構わないよ」
「じゃあ、行きます!」
瑞穂は電話を切ると、すぐに支度して、家を出た。
瑞穂のスーツの右ポケットには、池斗のミサンガが入っていた。
短期間での連載でしたが、自分の中にある『伝えたい事』を書かせて頂いた作品でした。
小説を書き、それを誰かに読んで頂くという事は、その人の時間をもらっているという事だと思います。
なので、そうした時間が良いものになったら(作品を楽しんでもらえたら)と、いつも考えながら、小説を書かせて頂いています。
それに限らず、様々な場面で時間をもらったり、あげたりしてるんだという考えを大切にしたいなと考えています。
また、貴重な時間を私の作品を読む時間にして頂き、本当にありがとうございました。
機会がありましたら、また別の作品を読んで頂けると、嬉しいです。




