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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

妻が消えた日。

作者: 折原神威

 雷鳴のうるささが、僕を夢から連れ戻した。エメラルドグリーン色のカーテンの向こう側は、雨が降っている。どうやら今日も妻は帰らなかったみたいだ。ダブルベッドが広く感じる。

妻の美幸が消えてかれこれ3ヶ月。妻が消えたという一大事なのに、大して取り乱さなかったのは我ながら驚きだ。


果たして私は妻を愛していたのだろうか。


 妻がいなくなってから私には楽しみができた。それは、寝室の隅に置いてある鉢植えに水をやる事だ。が、しかし、私は植物に水を与えているのではない。ただ単に土に水を撒いているのである。これは比喩でも特別な言い回しでも無い。鉢植えには、本当に植物など植えられていないのである。


この日は、いつもより多めに水を与えた。


一体妻はいつになったら現れるのだろうか。


なぜ、妻はいなくなったのか。


僕はそればかりを考えた。


 妻が消えた3ヶ月前を思い返してみると、妻が消えた理由にも思い当たる節がある。

ただひとつ言えるのは、私は妻を愛していた。全てを愛おしいと感じていた。

髪の毛の一本一本、皺の無い肌、足の爪、右手の小指、そして、眼球に至るありとあらゆるものが愛おしかった。全てが欲しかった。彼女から抜け落ちた体毛を私は大事に保管してあるし、彼女が切った爪も、丁重にとってあるのだ。私は、彼女の全てを自分のものにしたかった。


しかし、彼女はそれを拒んだ。


彼女は私のものになる事を嫌った。


彼女は私を裏切った。


 気がつくと、私は風呂場にいた。湯船のお湯は真っ赤に染まっている。

そして、

私の隣にある赤いモノ。そして、隣に落ちているノコギリ。

よく見ると、赤いモノの正体は肉だった。しかし、それが何の肉かは定かではないが、鮮やかな深紅の肉がある事から、まだ新しい、新鮮な感じがする。私は、キッチンへ戻り、急いで包丁を持ってきた。そして、最も新しい肉の塊から、一切れ切り取り、口に運ぶ。やはりと思った。この、よく分からない肉は食べる事ができるのだ。さらに、もう一切れと思い、私は、肉塊を漁った。マンガでしか見た事のない、骨付き肉もある。私は、とたんに空腹を覚えた。


私はその肉塊を全てボウルに入れ、キッチンへ運ぶ。鮮度が落ちる前に冷蔵庫で保存する事にしたのである。しかし、肉は相当な量があり、いつになったら食べ切れるのか分からない。私は、骨と肉とを分け、肉には防腐の意味を込めて香辛料で下味を付けた。骨は、捨ててはいけない気がした。だから、私は植木鉢に植える事を思いついた。妻のわがままで買った大きな冷蔵庫が、初めて役立った。と同時に、私は植木鉢に水を与えるようになった。


私は妻と一緒にディナーにしようと思った。







飛び飛びではあるが、あまりにも鮮明な3ヶ月前の記憶。

しかし、妻が消えた理由を解き明かしてはくれない。

もしかしたら、僕には一生分からないのかも知れない。


エメラルドグリーン色のカーテンの隙間から、太陽の光が差し込んできた。

午前7時00分。

今日の朝ご飯は目玉焼きにしようと思う。


以前、違うサイトにUPした作品の改定版です。


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