3 ほどよい婚約破棄とは……? 頭がいたいです。
そんな5年間で、殿下の無能ぶりに関しては、どんな博士や賢者よりもわかっているはずだったのですが……。
「でも、安心してほしいんだ。オレの計算だと、個人資産でなんとかキミやキミの家への賠償はできそうだから」
「ええっ? いつの間にそんな計算をしていたのですか?」
目の前にいるのは、あの殿下ですよね?
さえない、ブ男寄りの凡庸殿下ですよね?
あの殿下に、こんな驚かされっぱなしになるなんて……。
「いやー、ずいぶんとかかっちゃったよ。もっと早く婚約破棄するつもりだったんだけどさ。オレ、園芸関係の本以外は、読むと眠くなっちゃうんだよね。だから進まなくて」
それは……園芸関係の本は、ちゃんと読んでいるということですよね?
殿下が図書館へ通っていることは、多くの学園生に目撃されてはいました。
ですが、本を枕に惰眠をむさぼってばかりいるので。
『殿下は昼寝に図書館を使っているのか……らしいと言えばらしいな』と、ただでさえ低い評判をさらに下げるばかりだったのに。
まさか、特定のジャンルだけとはいえ、ほんとうに読んでいたとは。
「ほどよい婚約破棄ができるかって真剣に悩んでいたんで、いつもより頭に入ったよ!」
なんです、その、『いい汗かきました!』みたいな妙にさわやかなセリフは!
いつもはショボショボしている目までキラキラさせて。
それに、
「ほどよい婚約破棄……?」
婚約破棄にほどよいとかあるんですか?
「とは言っても、オレの出来の悪い頭で考えたことだからなー。そううまくはいかないかもしれない」
すでに、婚約破棄を人前でした時点で、うまいもうまくないもないのですが……。
「最悪、北の塔で病死かな、あんまり苦しまなくてすむ毒ならいいんだけど。うまくいけば、平民落ちか、辺境の男爵領でももらうってことになるんじゃないかな」
いや、なにをおっしゃってるんですか!
いわゆる『王族の病死(という名の処刑)』まで可能性として考えてるとか……
「ちなみに、オレがみるところ、男爵領ならバッサウ領あたりじゃないかな。ほら、あそこ不毛の土地だから。オレがダメ領主でも迷惑受ける人がほぼいないからさ」
殿下は本当に殿下なんですか?
いつのまにか双子と入れ替わっていらっしゃったとか?
余りの衝撃の連続に、わたしが言葉を失っていると。
殿下の背後にいたナントカ男爵令嬢が、殿下の腕にひしと抱きつき、
「で、殿下! さきほどから何を言っているんですか! 目の前の高慢なオンナに婚約破棄をなさるとおっしゃったじゃないですか!」
そう言いつつ、大きな胸を殿下に押し付け――
あっさり払われました。
「「え?」」
意外な行動に、わたしとナントカ男爵令嬢は声を揃えて唖然呆然。
払った勢いで殿下は振り返り、
「あれ? いきなりぶよっとした気持ち悪いものが押し付けられてびっくりしたら……なんで君たちここにいるの? 今夜ここへ来ることは話してなかったのに……」
側近のひとりが、
「心ある方が、殿下がひとりで乗り込むと教えてくださったのです!」
はい、それはわたしの仕込みです。
寄子のひとりに頼んで、彼らの耳に入るようにしました。
当然、そんなことは教えてさしあげませんが。
「はぁぁ……」
殿下は大きくため息をついた。
「この婚約破棄はオレのわがまま。巻き込まれる被害者は少なくしたかったのに……」
わがままだということはわかっていらっしゃるんですね。
それすらわかっていないのかと。
というか、殿下、予想外にわかっていらっしゃることが多すぎです!
それに、ナントカ男爵令嬢との真実の愛が理由でないなら。
なぜ、わたしと婚約破棄をしようとしているのかは、依然としてわかりません!
わたしは疑問を抑えきれず、予定にないことを尋ねてしまいました。
「あの殿下。そこの女、おほん、男爵令嬢と結婚したいから、とか、真実の愛だからとか、そういう理由がないなら、どうして婚約破棄など言い出したのですか」
「いや、だって、このままじゃ、キミはオレと結婚しちゃうじゃん。そんなのおかしいでしょう」
「??」
わたしは思わず額をおさえた。
殿下が何をおっしゃっているのか全くわかりません!
わたしが思っていたほど愚か者じゃないことは認めますから、わかる言葉で喋ってください!
たくさんある作品の中から、拾って読んでくださってありがとうございました。
誤字脱字、稚拙な文章ではございますがお読み頂けたこと幸いでございます。
完結までよろしくお願い致します




