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殿下は無能なので、婚約破棄すらまともにできない  作者: マンムート


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3/5

3 婚約破棄の正しい構図


 そして、当日。



 会場で、寄子のお嬢様方と歓談していると、スッと背後に侍女がやってきて、囁きました。


「殿下がいらっしゃいました」


 招待状がない方はお断りしています。


 実際、今夜もすでに、招待状なしでやって来た7名は、丁重にお帰りいただいておりますし、招待状を偽造し、身分も容姿も偽って潜り込もうとした方に対しては、それなりの処分をさせていただきました。


 ですが、殿下、ナントカ男爵令嬢、無能な側近3人は、招待状なしでも通すように言ってあるのです。


 わたしは小さくうなずきます。


 有能な侍女にはそれだけでいいのです。あとは手はず通りしてくれます。



 ほどなくして、殿下が、わたしの前に現れました。


 相変わらず、ブ男よりの凡庸。


 ショボショボした垂れ目、低く丸い鼻も汗まみれです。


 まぁ、わたしも人様のことが言えるほどの顔ではないのですが。



「あ、いたいた! メープル侯爵令嬢」



 殿下は、わたしの名前を呼びません。


 婚約者なのに、呼ぼうともしないのです。


 わたしの許可をとっていないので当然と言えば当然なのですが。



「これは王太子殿下、ご招待もしていない宴にいらっしゃるとは、どういう御用でしょうか?」



 わたしも、名前呼びなどしたくないので、何の問題もありません。


 ですが、このひと、婚約者だという自覚があるのでしょうか?


 それ以前に、王太子の自覚があるかすら、あやういものですが。



「キミに緊急で話さなければならない用件があってね……キミにとっては大したことじゃあないと思うけど」

 


 大したことじゃない? 婚約破棄の上に冤罪を掛けられることが?


 ああ、殿下、愚鈍すぎます。


 貴族の令嬢が婚約破棄されること、それが彼女にとってどんなに屈辱的な汚点になるか、わかっていらっしゃらないようですね。


 ですが、あくまでそれは一般論。


 今回に限っては、殿下のおっしゃる通りです。


 殿下が婚約破棄をしてくだされば、王太子になるわたしは引く手あまたですもの。



「……別室を用意させますか?」


 と、形ばかりは訊きます。周囲にも聞こえるように計算して。


 婚約破棄を人前で叫ぶというのは、愚の極み。


 まともな知能をもっている人間なら避けるべきこと。


 わたしは、ちゃんと殿下のことを考えていましたよ。わたしはね。


 という周囲へのアピールです。


「いや、なるべく多くの人に聞いて欲しいから、ここで」


 予想通り。


 あ。ですが。


「壇の上からなさるのでは?」


 婚約破棄では、それが定番だと小耳に挟んだことがありますから。


「うーん……いや、ここでいいよ」


「では、お聞かせ願いますか? その用件とやらを」  


 殿下は、ごく軽い口調で、


「オレとキミの婚約を破棄しようと思うんだけど、どう?」



「……」


 なんですか、その『明日は朝早く起きられればいいなー』みたいな、どうでもいい話し方は!


 まぁ愚鈍な方ですから……。



 わたしの反応を見て、殿下は頭を掻いて、


「ああ、今のはまずかったな。慣れていないんだ。こういうのは、はじめてだから」



 当たり前です。


 そもそも、殿下程度の方が、何度も婚約破棄が出来るわけがないでしょうに。



 殿下は、こほん、と咳ばらいをしてから、礼服の胸ポケットから、くしゃくしゃに丸めた紙を取り出すと、広げて、目を通しはじめました。


「ふむふむ……大声で重々しく……そうだったそうだった。今度はちゃんと言うぞ」


 そう言うと、背中で手を組んで、大声で言い放ちました。


「メープル侯爵令嬢マリア。お前との婚約は、今日をもって破棄する!」



 周囲の音楽がぴたりと止まった。



 罠にかかった。


 ですが、なんですか、この違和感。


 というか……締まりのなさは……。


 一応、人生の大事なのですから、もう少し、展開とか段取りとか言い方というのがあると思うのです。



 殿下は、ふぅ、とため息をつくと、さっきの紙切れで額の汗をぬぐい。


「あ、いかんいかん」


 慌てて別のポケットを探って、ハンカチを取り出すと、もう一度汗をぬぐってから、


「メープル侯爵令嬢。これでいいのかな? 伝わったかな?」


 と自信なげに言ってきた。



 いや、そんなこと聞かれてもね……まぁ、伝わってはいますけど。



「よろしいかと……理由をお聞きしても?」



 聞くまでもないのですが。


 殿下の腕にぶらさがっている男爵令嬢のせいですよね――あれ? いませんわ?



「あー、理由かぁ……うーん」


 ここ、悩むところですか!?


「キミが出来過ぎでオレにはもったいない、じゃだめかな?」


「……なるほど」



 理由としては、これはこれで典型的ですね。


 ただ、知恵の足りない殿下であれば、いきなり冤罪をふっかけてくると予想していたのですが。


 取り巻き3人の入れ知恵でしょうね。



「納得してくれたか! それはよかった! 書類はまだだけど後で正式に作って送るよ」



 なにを晴れやかな顔をしていらっしゃるやら。


 このあと悲惨な運命が待っているというのに……愚かな人間は哀れですね。



「わたしと婚約破棄したあと、あの方と婚約するつもりなのですね」


 一応、確認。



 殿下は、きょとん、としたあどけない顔で、


「あの方って誰?」



 しらじらしいですね。


 不貞を認めたら、殿下の有責になるからでしょうけど、小賢しいです。


 3人のうち誰が入れ知恵したのでしょうか?



「ボウ男爵令嬢ですよね? いつもご寵愛なさっている」


「あーアレ。そう見えちゃってたかぁ。でも、アレはオレの側近達にひっついてるだけなんだけど」


 なかなか斬新な言い訳ですね。


「でも、彼女、彼ら全員と関係もって誰と結婚するんだろう? うちの国では何人もの相手と同時には結婚できないはずなんだが……」


「は?」



 いけませんわ。余りの空とぼけっぷりに、思わず声が出てしまいました。



「……殿下と結婚するおつもりなのでしょう」



 あ、ようやく現れましたね。


 恋多き男爵令嬢と、殿下の側近の方々が。


 殿下の後ろにずらりと並んで、こちらを睨みつけてきます。



 ああ、違和感の正体がわかりました。


 婚約破棄の場面では、大抵、愚鈍な男と、取り巻き複数と、泥棒猫はセットと決まっているもの。


 その構図が崩れていたからだったんですね。




「オレと? オレとアレが? まさか。オレはこの婚約破棄で廃嫡になるから。王太子じゃなくなったオレなんか無価値だからね」


「……は?」


 今、廃嫡とおっしゃいましたよね?


「え」


 あら、遅れて現れた方々も驚いています。


「? なぜ驚くのかな? 国王陛下の不在時を狙って、王命に反した行為を勝手にしたわけだから当然だよ」



 まさか、ほんとうに判って行動していらっしゃるとは!?


 でも、わかっているならこんなことはしでかさないはず……わけがわからないです!



たくさんある作品の中から、拾って読んでくださってありがとうございました。


誤字脱字、稚拙な文章ではございますがお読み頂けたこと幸いでございます。


完結までよろしくしくお願い致します

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