1 敵は罠にかかった……はずですよね?
初心に帰って婚約破棄ものです。
では、はじまりはじまり。
※お知らせ
本作はタイトルを変更しました(旧タイトルは『殿下は無能なので、婚約破棄すらまともにできない』)。
内容に変更はありませんので、引き続きお楽しみいただければ幸いです。
「オレとキミの婚約を破棄しようと思うんだけど、どう?」
苦節5年!
ついにこの時が来ました!
余りにもうまくいきすぎて、相手が哀れになるほどです。
「……」
の、筈なのですが……。
なんですか、その『明日は朝早く起きられればいいなー』みたいな、どうでもいい話し方は!
ですが、仕方ありません。
目の前で、頭の悪いセリフを言い放ったこの方。
現時点ではわたしの婚約者であるジャガル・ヤゲーロ王太子殿下。
『婚約破棄』でみなさんが思い浮かべるであろう、『中身はカスだけどそこそこ美形王子』とは全然ちがうんです。
いや、もう遠慮なんかする必要はないので正直に言います。
美男からは程遠い、ブサイク寄りの凡庸。つまり不細工です。
目は小さく、ちょっと寄り目気味で、そのうえ垂れ目。
鼻は低く丸く。唇は分厚い。
小柄でデブよりで、金髪も赤みがかった中途半端さ。
いかにも王太子らしい礼服は着ていらっしゃいますが、全くといっていいほど似合っていません。
わかっていたとはいえ、パッとしないです。
とはいうものの、かくいうわたしのパッとしなさでは負けていません。
黒髪一重の黒目で、隠しきれないソバカスが散った地味な女。
鼻だって平凡です。
しかも女にしては背が高く、目の前の殿下と大して変わりません。
腕も脚も太め。
華美な服が似合わないので、今日も白と、胸元と襟と裾に青が入った地味なドレスです。
絵にかいたような美男美女からほど遠いわたしたち。
いわゆる『婚約破棄』の場面の絵としては地味で華やかさに欠けているという自覚はあります。
物語の場面としては少々物足りないですが、ここは現実。
この場面に立ち会わせるために召集された我が侯爵家の親戚一同、寄子の方々、派閥の方々。
そして招待された中立派の大立者のみなさま。
そこは許してほしいです。
わたしの反応を見て、殿下は頭を掻いて、
「ああ、今のはまずかったね。慣れていないんだ。こういうのは、はじめてだから」
当たり前です。
そもそも、殿下程度の方が、何度も婚約破棄が出来るわけがないでしょうに。
殿下は、こほん、と咳ばらいをしてから、礼服の胸ポケットから、くしゃくしゃに丸めた紙を取り出すと、広げて、目を通しはじめました。
「ふむふむ……大声で重々しく……そうだったそうだった。今度はちゃんと言うぞ」
そう言うと、背中で手を組んで、大声で言い放ちました。
「メープル侯爵令嬢マリア。お前との婚約は、今日をもって破棄する!」
あ、それっぽいです。
少しは勉強して来たんですね?
それとも、あの男爵令嬢や側近のバカ3人の入れ知恵でしょうか?
入れ知恵するなら、婚約破棄をやめさせるのが筋だと思いますが……。
アホ発言と同時に、音楽がぴたりと止まりました。
針が床に落ちる音さえ聞こえそうな静寂。
舞踏会場出席者の全ての視覚と聴覚が、目の前の愚か者とわたしに集まっています。
会場中のみなが愚か者のふるまいを見て、聞きました。
そして、ここにいるのは、我が侯爵家の親族と寄子と派閥に属する者たち、並びに中立派の中でも影響力のある貴族だけです。
全て計画通り。
冤罪による婚約破棄が、卒業パーティで行われると察知したわたしは、さっさと決着をつけたかったので罠を張ったのです。
国王陛下と王妃様が外遊で留守の今夜を狙い、当家で夜会を開き、『今年の卒業パーティには陛下が臨席するらしい』という風聞を流しました。
愚鈍な殿下とその取り巻きと男爵令嬢は陛下のいない機会にことを起こしたいはず。
そこを一網打尽に……
あれ?
あの男爵令嬢と、バカ3人組は?
こういう時、目の前のバカ、いえ殿下の背後に4人で並んでいるべきでは?
男爵令嬢は、バカの腕に抱き着いているべきでは?
さきほど、侍女から彼らが会場入ったという報告があったのに……何をしているのでしょう?
合流することさえできない、というか、合流してから会場に来るくらいしてください!
バカは、ふぅ、とため息をつくと、さっきの紙切れで額の汗をぬぐい。
「あ、いかんいかん」
慌てて別のポケットを探って、ハンカチを取り出すと、もう一度汗をぬぐってから、
「メープル侯爵令嬢。これでいいのかな? 伝わったかな?」
と自信なげに言ってきました。
いや、そんなこと聞かれてもね……まぁ、伝わってはいますけど。
予定通り進んでいるのに調子が狂います。
「よろしいかと……理由をお聞きしても?」
本当は訊くまでもないのです。
殿下の腕にぶらさがっている……今はなぜかいないですが……男爵令嬢のせいですよね……?
ああ、もう、いないので、間が抜けすぎです!
「あー、理由かぁ……うーん」
ここ、悩むところですか!?
「キミが出来過ぎでオレにはもったいない、じゃだめかな?」
「……なるほど」
理由としては、これはこれで典型的ですね。
ただ、知恵の足りない殿下であれば、いきなり冤罪をふっかけてくると予想していたのですが。
取り巻き3人の入れ知恵でしょうね。
「納得してくれたかー! それはよかった! 書類はまだだけど後で正式に作って送るよ」
なにを晴れやかな顔をしていらっしゃるやら。
このあと悲惨な運命が待っているというのに……愚かな人間は哀れですね。
「わたしと婚約破棄したあと、あの方と婚約するつもりなのですね」
一応、確認。
殿下は、きょとん、としたあどけない顔で、
「あの方って誰?」
しらじらしいですね。
不貞を認めたら、殿下の有責になるからでしょうけど、小賢しいです。
3人のうち誰が入れ知恵したのでしょうか?
そんな知恵があるなら……さっきと以下同文。
「ボウ男爵令嬢ですよね? いつもご寵愛なさっている」
なぜかいないですが。
「あーアレ。そう見えちゃってたかー。でも、アレはオレの側近達にひっついてるだけなんだよね」
なかなか斬新な言い訳ですね。
バカが斬新な言い訳すると、イラっとします。
「でもさー、彼女、彼ら全員と関係もっちゃって誰と結婚するんだろう? うちの国では何人もの相手と同時には結婚できないはずなんけど……どう思う?」
「は?」
いけませんわ。余りの空とぼけっぷりに、思わず声が出てしまいました。
「……殿下と結婚するおつもりなのでしょう」
あ、ようやく現れましたね。
恋多き男爵令嬢と、殿下の側近の方々が。
殿下の後ろにずらりと並んで、こちらを睨みつけてきます。
ようやくあるべき構図になりました。
ホッとします。
婚約破棄の場面は、大抵、愚鈍な男と、取り巻き複数と、泥棒猫はセットと決まっているものですから。
「オレと? オレとアレが? まさか。オレはこの婚約破棄で廃嫡になるから。王太子じゃなくなったオレなんか無価値だからねー」
「……は?」
今、廃嫡とおっしゃいましたよね?
「え」
あら、遅れて現れた方々も驚いています。
「? なぜ驚くのかな? 国王陛下の不在時を狙って、王命に反した行為をしたんだから当然だよ」
まさか、ほんとうに判って行動していらっしゃるとは!?
でも、わかっているならこんなことはしでかさないはず……わけがわからないです!
そもそも殿下に、こんな知能があるなんて、計算外です!
たくさんある作品の中から、拾って読んでくださってありがとうございました。
誤字脱字、稚拙な文章ではございますがお読み頂けたこと幸いでございます。
完結までよろしくお願い致します




