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第一話

ここはエルフォード王国。今夜、その王城で大規模なパーティーが開かれていた。

しかし、その大広間はやけに静まり返っていた。

その静けさを破ったのは、王太子——セドリック・エルフォードの声だった。


「公爵令嬢リディア・エクレシア。

今この時をもって君はもう僕の婚約者ではなくなった。」

「君との婚約を破棄する!」


ざわり、と貴族たちが混乱した。

私はただ、静かに瞬きをした。


「理由は明白だ。君は無能だ。魔力も少なく、王妃としての品位のかけらもない。」

「僕の愛するミレイユに遠く及ばないな!」


私は小さく心の中でため息をつく。


「しかし、こちらのミレイユは違う。魔力量も多く、社交性、そして王妃としての才能を兼ね備えている。」


隣に立っている令嬢が私を見て密かに微笑んだ。

けれど、そんなのどうでもいい。

私にとってこれは絶好のチャンスだ。


「今すぐにこの国を出ていけ!」


「承知いたしました。今すぐ、この国を出ていく準備をいたします。」


その言葉に、周囲がどよめいた。

まあ、そうでしょう。

周りの”お貴族様”はみんな私が泣き叫ぶか、婚約破棄を取り消してくれと懇願するとでも思っていたのだろう。

だが、そんな期待を裏切って私は婚約破棄をあっさりと受け入れた。


あの王太子の間抜けな顔といったら、——本当に笑える。

おおかた王太子も他の貴族たちと同じような考えだったのでしょうね。

でもそんなあなたたちの思い通りになんかいかない。

今までどんな苦痛にも耐えていけたのは、

いつかこの日が訪れると、信じていたから。


さぁて。

屋敷に帰ってこの国を出ていく支度をしなくては。

「では、失礼いたします。」

「お、おい! 待て、リディア!」

この状況で待てって言われて誰が待つのよ。


今でもたまに夢に見る。

――昔、湖のほとりで泣きじゃくりながら

「ごめんなさい」と何度も何度も繰り返した、のどがかれるほどに。

助けたつもりだったのに。

一番大切な人を、

私を一番に想ってくれていた人を、

私は――


「っ……はぁ、はぁ……」

また、あの夢。


私って自分で思っているよりも過去にとらわれるタイプなのかもしれない。

だってもう、十年、か。

それよりもこれからのことを考えないといけない。

自分の部屋で荷物をまとめている途中でお母様に見つかってしまってほとんど何も持ってこれなかった。

あんなに強くたたかなくてもいいじゃない。

まだ頬がヒリヒリする。


結局私は両親の都合の良い道具でしかなかった。

初めて王太子と会って、それからしばらくして彼との婚約が決まったあの日。

その時がお父様は一番喜んでたっけ。

私もお父様があんなに喜ぶところを見て嬉しかったなぁ。

でも今思うと、あの時が一番幸せだったのかな?

あの時が私は一番——馬鹿でいられた。


でも、もう大丈夫。

あんな、形だけの家族とはもう今後二度と会わないだろう。


せいぜい後悔したらいい。

この王国一の最強魔女を、逃してしまったことを。

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