Melody for You
高校生活は、毎日が同じようで少しずつ変わっていく。
私はいつも教室の片隅で、クールな翔の姿を眺め、友達のゆいと雷のやり取りに微笑む。
小さな休み時間や音楽室の隅での出来事が、私の心に小さな光を灯す。
この物語は、そんな日常の中で生まれる、ちょっと切なくて温かい恋の旋律――Melody for You です。
第1章:休み時間の教室
休み時間の教室には、わずかなざわめきと光だけが残っていた。
机の隅で、誰もいないのに軽く指先で机を叩く男の子がいる。西園寺 翔――クラスでも一目置かれる、少し変わった音楽好きの同級生だ。マッシュの髪が光に揺れ、クールな横顔を見せる。みんなは「変わり者」と笑うけれど、どうしてだろう、私はつい見つめてしまう。
「またあの子、見てるの?」
後ろから声をかけたのは、私の親友・如月 ゆい。ギャル風の明るい外見に反して、乙女なところもある。だけど私は知っている――ゆいは、望月 雷のことが大好きなのだ。
「ゆ、ゆい…別に…」
咄嗟に答えると、ゆいは笑って肩を叩き、教室のドアの方を指さした。
「ほら、あのラッパーみたいな子、雷。今日も元気そうじゃん!」
雷はアメリカから帰国したばかりで、ラッパー風の服装に身を包む、ちゃらめの陽気な男子だ。でも、ゆいを見る目だけは少し真剣で、誰よりも優しい。
「おい、翔。ちゃんと遊んでるのか?」
雷の声が教室に響く。翔は眉をひそめるが、小さく「…うるさい」と返すだけ。
でも私は知っていた――そのクールな表情の裏で、翔も少し気にしているのだと。
ゆいは私の手をぎゅっと握って、にやりと笑った。
「ねぇ、けい。翔くん、ほんとにかっこいいよね」
私は少し赤くなり、視線を逸らす。
「うん…でも、雷とゆい、なんだかんだ似合ってるな」
ゆいは小さく頷き、嬉しそうに笑った。
教室のざわめきの中で、私は静かに心を揺らされていた――翔が紡ぐ音楽の空気に、そして、ゆいと雷の甘いやり取りに。
第2章:音楽室で二人きり
休み時間が終わり、教室に少しずつ人が戻る中、私は勇気を出して翔の机に近づいた。
「ねぇ、ちょっといい?」
小さな声に、翔は眉をひそめながらも顔を上げる。
「…何?」
冷たい声に聞こえるけど、少し柔らかさもある。
「音楽室…行かない?」
翔は一瞬目を細め、私をじっと見つめた。
「……いいけど、別に特別なことじゃないぞ」
音楽室は昼の光が差し込み、机や椅子の影が静かに伸びていた。翔は椅子に腰掛け、机の上のギターを手に取る。
「これ…自分で作った曲?」
恐る恐る聞くと、翔は微かに笑った。
「まあな。別に聴かせるつもりはなかったけど…」
私はそっと隣に座った。指先から伝わる弦の振動、弾くたびに広がる音。クールで少し遠い存在だと思っていた翔が、目の前で自分の世界を紡いでいる――その瞬間、胸がぎゅっとなる。
「…すごい」
思わず声に出すと、翔は肩をすくめて微笑む。
「ふん、そうか」
その短い返事に、胸が温かくなる。
第3章:距離感の揺れ
教室に戻ると、私は翔との時間を反芻していた。
クラスメイトの視線、休み時間のざわめき、翔のクールな横顔。
ゆいは私の横で、そわそわしていた。
「ねぇ、けい…今日の雷、なんかかっこよくない?」
私は小さく笑った。ゆいが雷に心を奪われているのは明らかだ。
雷も、わざとらしくではなく、自然にゆいを意識している。
「おーい、二人とも、見ろよ。翔も練習してるぜ!」
私は胸がじんわり熱くなる――翔の世界に少しずつ近づける喜びと、ゆいと雷の恋心が見える温かさ。
第4章:文化祭準備・葛藤
文化祭が近づき、クラスでは音楽発表の準備が進む。
翔はステージに立つか迷っていた。自分の曲を人に聴かせることは、勇気が必要だ。
「本当にやるのか?」
私がそっと尋ねると、翔はマッシュの髪をかき上げ、目を細めた。
「…わからない」
ゆいと雷も協力して、翔を励ます。
「大丈夫だよ、翔!俺たちがついてる!」
「うん、絶対成功するよ!」
その声に、翔は少し肩の力を抜いた。
ゆいと雷のやり取りも自然で、二人はお互いに見つめ合い、にやりと笑う。
第5章:文化祭当日
文化祭当日――教室や廊下には、みんなの笑い声や準備のざわめきがあふれていた。
私は胸の奥がざわつくのを感じながら、音楽室へ向かう翔の後をそっとついていく。
「本当に出るのか?」
小声で尋ねると、翔は肩をすくめる。
「…まあな。でも別に、お前のためとかじゃない」
ステージで翔がギターを手に取り、指先から紡ぐ音。
私は息をひそめて聴く。
クールな横顔、マッシュの髪、そして弾かれる音楽――すべてが心を揺らす。
雷とゆいも応援している。
二人は笑いながら見つめ合い、互いに手を握り合う。
その様子を見て、私は胸がじんわりと温かくなる――恋の形は違うけれど、同じように輝いているのだと。
演奏が終わると、教室全体に大きな拍手が響いた。
翔は微かに笑い、私を見た。
「…聴いてくれたな」
私は小さく頷く。
「うん、聴いたよ」
第6章:求めて...
演奏後、私は翔の横顔をもう一度見つめる。
まだ恋かどうかはわからない。けれど、翔の世界を少しだけ覗けた幸福が胸に残った。
ゆいと雷は、手を握り合い、笑顔でお互いを見つめている。
二人の恋も、静かに、でも確かに始まっている。
教室を出ると、日差しが優しく差し込み、胸には小さな幸福が満ちていた。
こうして、私たちの 「Melody for You」 は、静かに始まったのだった。
読んでくれてありがとう。
景と翔、ゆいと雷――それぞれの気持ちは違うけれど、どちらも大切で、心の奥で響き合う。
恋の形は一つじゃない。静かに始まるものも、はっきり見えるものもあるけれど、どれも温かく輝いている。
読んだあと、みなさんの心にも小さな旋律が残ってくれたら嬉しいです。
雷の物語も作りたい
音楽大好き