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welcome to CLUB『ISK』へ  作者: れいと
第一部 刻まれた未来
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第10話-4/11

部屋を出て右に折れており、その先に通路を挟んで両隣りに扉が設置されている。


作りこそ違えどホテルの通路を思い浮かばせる作りだ。


だが見渡す限り材質は木で作られており、鉄骨やコンクリートと言った類のものは使用されていないように思えた。


「普通の建物?」


一言零す蒼太に月姫も相槌のように言葉を返した。


「個室に入った段階でこちら側に転移されてますから、敏感な方はホールからの入室時に一瞬の違和を感じられるみたいです」


「そうなんだね」


通路の先からは賑やかな喧騒が下の方から聞こえはじめ、ここが上の階であることが分かった。


「ここは安全なの?」


物珍しそうにあたりをキョロキョロしながら誰に問うでもなく陽奏が呟くと、すぐ隣を歩くエルナが反応しそれに答えた。


「あぁ、普通の街中の宿屋兼酒場だからな」


「そっか、エルナちゃんが腰につけてるのは剣?本物?」


彼女の腰にはベルトと鞘が取り付けられていた。


刀身が80cm程度の長めの剣のようだが、以前蒼太が見たことがあるタイプのものよりかなり細く、フェンシングなどで使用される種類の武器の様だった。


「もちろん本物だ、万が一のための武装だよ」


「もしかして戦いがあったり?」


二人の会話におのずと蒼太も耳を傾けてしまう。


先頭を歩く月姫は階段にさしかかったようで、階下の喧騒も大きくなり始めたころだ。


そこで月姫は足を止め、他のメンバーが追い付くのを待っているようだった。


「それはないと思われる。護衛としての最低限の心構えをしているだけだ」


「安心したよ。…そうだ、俺はかぐちゃんを守るってことで来てるんだし」


「外の世界にでも行かなければ危険はないがな…」


「滅多なことがないかぎりはオレたちも町の外には出ないぜ?」


そう言ったのは褐色の肌のキャスト、サラだ。


「買い物は街の中だけってことだね」


そういうことと言葉の代わりにサラは親指を立てて陽奏に応える。


蒼太が気になることをほとんど陽奏が聞いてくれたおかげで彼が特段確認することはなくなってしまった。


「この階段を下りて下の階に行きます。下は酒場兼食堂になってますので…」


らせん状の階段があり、手摺越しに階下の状況をうかがうことができる。


小柄なアスカだったが、ワゴンを片手で持ち上げるとそれを肩に乗せ遅れないようにと会談を降り始めた。


その上でバランスを崩さない様、シルクが上からフォローしているのが分かる。


力仕事は男である自分の出番と心構えしていた蒼太だったが、彼の活躍の場はないようだった。


ISKと比べても幾分かは広く、いくつかのテーブルとカウンターには溢れんばかりの客人が酒を煽り、話に花を咲かせていた。


豪快な笑い声、時折怒声が混じっているが喧嘩ではなく、日常的なやり取りが行われているようだ。


見る限りに冒険者ですと言っているような出で立ちに、中には酒場には似つかわしくない全身金属製の鎧を身に纏ったものまでいる。


「うわぁ…」


むせ返るような独特の匂いと雰囲気に蒼太は感嘆の声を上げた。


夢にまで見た世界が眼下には広がっている。


先頭を行く月姫に従い、各々のペースで一行はその階段を下りて行った。


いち早く存在に気付いた少し年配の女性が月姫を見上げながら大きめの声で挨拶を投げかける。


年齢は40代半ば、少し小柄で控えめな感じだが愛嬌はよさそうな印象を受ける。


「あっ、ムーンさんお久しぶりです、今日は大勢ですね」


いつもならもう少し少人数なんだろうが、今回は客人として蒼太、陽奏、護衛のエルナが居る分大所帯となってしまっている。


「はい、少しこちらの世界を見学にさせてもらいます」


螺旋階段を降りきると、月姫は改めてその女性に深く一礼をする。


それに次いでサラ、ネネと次々と一階に到着していった。


「いつもの4人とムーンさんと見慣れない御三方ですね」


その女性は指さしながら、余剰となる3人の顔を確認していた。


蒼太たちも軽い挨拶を交わしている所へ、カウンターから大きく野太い声が彼らに向けられた。


「沙羅、待ってたよ!さっそく厨房に入ってもらえるか」


声の主はあごひげを蓄えた、豪快を体現した感じの男性。


髭同様に眉も特徴的で声をかけてきた女性と同年代の店主と思える人物だった。


「あいよ!腕が鳴るぜ」


その声にこたえる様にサラは腕を上げ返事をすると、右手に力こぶを作りその手をぶんぶんと振り回しながらその親父の方へと向かって行くのだった。


「あたしもー、今日は非番だったからー、体力を持て余してたのよねー」


サラの後ろをエプロンをなびかせながらネネが続く。


蒼太は二人の後姿を見送っていたが、ネネが前はエプロンこそしていたもののその下には何も着用していないことに気づく。


綺麗な曲線を描く臀部がぷりぷりと動き、あまつさえ下着すら着用していないことが見て取れた。


そこにくぎ付けになる蒼太の視線を遮るかのように月姫は立ちはだかると、蒼太と陽奏に向かって声をかける。


「ここで沙羅さらさんと寧音ねねさんは厨房にいってしまうので、私たちはお店を出ましょうか」


先行く月姫に従い、しんがりを務めるアスカが方から降ろしたワゴンを押しながら一行は店の外へと向かって行く。


テーブルとテーブルの間が狭く、導線が確保されていないが人の間を縫いぶつからないように店の外へと向かって行った。


ある意味無法地帯の様な感じさえする。


「にしても賑やかだね」


はにかみながら蒼太は一人零していた。


その言葉に彼の少し上を漂っていたシルクが応える。


「今日は私たちが来るから特にここは賑わうよ~」


「そうなんだ」


「君たちの世界で週に2度、こちらの世界で言えば3~4度、彼女たちはここに来て君たちの世界の料理を振舞っているからね。とても美味しいと評判らしい」


次いで豆知識としてエルナが言葉を続けた。


「ってことは時間軸とか俺達の世界とは違うってこと?」


この世界の概要は分からないが、おそらく交わう事の無い平行世界で時間が進んでいるのだと予想する蒼太。


宇宙の遥か向こうの世界なのかもしれないし、まったく同時間帯に存在している世界でないのかもしれないが、今の蒼太が知りうる術はない。


「あぁ、時間は同じ扱いだが私たちの世界の一週間は12日で構成されている」


「変わってるね」


「私達にすれば君たちの世界の方が変わっているがな」


と少し嫌味を込めてエルナは言った。


人は物事を判断するときに自分を基準に考えてしまうのが悪い癖だと言いたげな表情をしている。


そんなやり取りをしているうちに店の玄関口につき、先頭を歩いていた月姫が扉を開けると思わぬ人だかりに蒼太たちは唖然となった。


「で、これが説明していた露店になります」


月姫が外に出て店の入り口横に設置されている木製の建造物を指差し言った。


露店と言っても屋台に近い作りで、ワゴン販売をイメージさせる。


雨露を凌げる屋根があり、簡易カウンターにカウンター内はいくつかの棚が設置されている。


ワゴンと違って車輪はないところをみると移動させる必要性がないのだろう。


それより目を奪われたのは人の多さだった。


ざっと見繕って30人程度、いやそれ以上の人だかりがそこにはできていた。


「なに?この人だかり!?」


「私たちの世界でもありますよね?開店待ちの行列ですよ」


驚く蒼太に月姫は冷静に答える。


「そんなに人気なの?」


陽奏は周りを見渡してから月姫に尋ねた。


周囲の通路も人の往来こそあれ、そこまでの人だかりができている店舗はここしかなかった。


すでにアスカとシルクは運んできたワゴンからダンボールを下ろし、カウンター内の棚に決められた備品を並べ始めていた。


二人に店の準備は任せたまま邪魔にならない様、また人ごみに紛れないように他の四人は少し離れた場所で様子を見ながら佇んでいた。


「特にスイーツは人気ありますね、今日はマカロンなので特にだと思います」


説明する月姫に、陽奏がさらに質問を被せていく。


「この世界にもマカロンって存在するんだ?」


「しませんよ、だからこそ人気なのかもしれません。最初は行列は出来ていませんでしたが、噂が広まって今ではこんなに沢山…」


徐々に準備が進む中、シルクは率先して列の整理に努めていた。



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