第1話-9/16
初めまして、【れいと】と申します。
初投稿ですので色々不手際があると思いますが応援お願いいたします。
すでに蒼太がこの店に来てから1時間が経過しようとしていた。
沢山のキャストに飽くことなく、眼福な時間が流れていく。
ミアのように居座って話し込んでくれるキャストはあれから現れないが、
堂々と水着の女性を眺めているだけでも蒼太は至福と思えた。
不思議と同じキャストが蒼太に挨拶を求めることはないが、
その後も何人かは蒼太と入店ありがとうの意味合いを込めた挨拶を交わした。
ほとんどは挨拶の後、軽いやり取りはあるが、
その中で蒼太が名前と顔をしっかり覚えるほど
インパクトのあるキャストはいなかった。
「おはおは、うち茉凛っちゅうねん、よろしゅうに」
また新たなキャストが独特のイントネーションで挨拶に来る。
彼女は下腹部から馬の身体を持つマツリ。
インパクトで言えば十分すぎるほどの彼女の容姿。
「あっ、よろしく」
ミアとはまた違った意味で大柄な彼女は上から見下ろすように、
癖のある方言で言葉をつづけた。
「あんちゃん初めて見る顔やん、初見さん?」
蒼太のすぐ横に来ると彼女は前足を折り曲げ、低い姿勢を取る。
その状態から両手を広げいつものようにハグ、頬の交接を交えた挨拶を終える。
「うん、初めて来たよ」
マツリは挨拶を終えても低い姿勢のまま蒼太との会話をつづけた。
「仲よ~なったら背中乗せたってもええで?」
にしゃりと笑みを浮かべ自身の背中を指さすマツリ。
綺麗な毛並みに乗り心地はよさそうだが、
彼は生まれて一度も乗馬の経験はなかった。
「おっ?グラスからになってるやん?何か頼む?」
「あ、じゃあ同じのを」
「同じのってうち、あんちゃんが何呑んでたか知らんし…何呑んでたん?」
懐に入るのが上手いのか、
ずけずけと以前から友達のような口ぶりで訪ねて来る。
「あ、ビールを」
「ビールやね、ちょい待ってて、これで注文入れるわ」
そういいつつ左手の時計を操作し始めるマツリ。
みればほとんどのキャストが左手に
リストバンドのようなものを付けていることが分かった。
リストバンドの下には時計が見えないようにカモフラージュしていて、
いわゆるウェアラブル機器で注文や情報を得ていることが分かった。
先ほどから蒼太が疑問に思っていたことが一つ解決する。
入店時にもらった名札に愛称・名前は書いているが
それを見る前からほとんどのキャストが蒼太の愛称を知っていることだった。
背後から現れたアルカに至っては名札をみることができるはずもないのに
いきなり愛称で呼びかけて来たのがとても不思議だと思っていた。
同じキャストが二度目の挨拶に来ない理由も
このアイテムで彼女たちに情報を与えていたのだろうことが推測できる。
「ほな、注文したし、もうちょっと待っといてな、
のど乾いてるならうちが取ってこよか?」
「そこまでしなくても大丈夫だよ」
押しが強い印象を受けたが彼女から別段悪気は感じなかった。
「そうちゃん可愛いわ。
この店では遠慮しとったらあかんで?大胆かつわがままにや」
マツリが蒼太の頭をよしよしと撫ぜながらにしゃりと笑う。
彼女の笑顔は周りの人を楽しくさせる効果があるようで、
ミアとは違う好感を持てる相手だと思った。
平穏でゆったりとした時間が流れていた筈なのに
突如嵐のように空気の流れが変わる。
「待たせたニャ!見た見た?ミーのダンス観てくれてた?」
急に蒼太の背後から抱き着いてくるキャスト。
蒼太が名前を憶えているキャストの内の一人、ミオの再来だ。
「あ、う、うん」
戸惑う蒼太の生返事にミオは口をへの字に曲げた。
「嘘は良くないニャ!何度かミーが視線を送ったのニョに
ミアニャンに鼻の下伸ばしてたニャ!」
店内が暗くなっていたのにと思ったが、
彼女がただの人ではなく猫のなにかであることを
受け容れれば夜目が利くことを察した。
ミオが舞台で踊っていた時間といえば
隣でミアが話し相手になっていてくれた時だ。
「そ、それは…」
返す言葉を選ぶが、良い台詞が出てこず良いよどむ蒼太。
ミオは腰に手を当てて前傾姿勢で蒼太の顔に
自身の顔を近づけてふくれっ面のまま続けた。
「浮気はダメニャ!まぁ今回は許すニャけど…ボックス取ったから行こうニャ!」
「ボックス?」
またしても初めて聞く単語に蒼太は首をかしげる。
そんな彼に説明することもなくミオは手を伸ばし、彼に席の移動を促した。
ミオに連れられ立ち上がる蒼太に前足を曲げ
低い姿勢を取っていたマツリもいつものスタンスに戻り、
離れていく二人の後姿に一言投げかけた。
「ほな、うちは邪魔せんとくわ、みおも初見さんに無茶したらあかんで?」
両手をパーに広げ、それぞれの指を揺らして見送った。
それは彼女特有のさよならの仕草だった。
「初めての人には大サービスがミーの座右の銘だニャ!」
「座右の銘ってそういう使い方?」
「まぁ伝わればいいニャ!」
手を引きながらミオはボックスと言われた場所へと移動する。
席の移動と言ってもそれほど遠くに行くわけでもなく、少し横にある、
低めのパーテーションで区切った空間に壁を背に4人掛けのソファーがあり、
小さな机を挟むようにして反対側にも一人用のスツールが2脚おいていた。
区切られたパーテーションの中には最大6人まで
座れるようになっているのがボックス席と呼ばれる場所のようだ。
ミオは先に着席するなり、手を引く蒼太も隣に座らせる。
先ほどの席よりは舞台が見えにくくはなるものの、
椅子の座り心地はとても良いものだった。
「ここがボックス席?」
一人掛けの椅子に座っているより、格段にキャストとの距離が近く
ミオは体をゴロゴロと喉を鳴らしながら蒼太の身体に擦り付けた。
この仕草だけでなく、いたるところで蒼太は彼女を猫だと認識していた。
耳や、尻尾、そのディティールや完成度が抜群に良く、
直近で見てこそ瞳や歯、どれもが人間とは少し離れた何かだと確信する。
「そうそう、要リザーブニャ、舞台に出る前に手続きしてたニャ!」
身体を摺り寄せるだけでなく、
ミオは蒼太のいたるところにキスの雨を降らしていた。
首筋や、耳、頬に唇。
戯れが過ぎるほどの愛情表現を示して見せる。
されるがままの蒼太だが、これまた悪い気はしない。
隣もその隣もここと同じように低いパーテーションで
区切ったボックス席になっているが、生憎とそこは空席のままだ。
どちらもテーブルの上には「リザーブ」と刻印された
オブジェクトが置いてあり後ほど現れるのは間違いないだろう。
ご覧いただきありがとうございます。
ファンタジー世界のキャストが沢山居るキャバクラ店のお話です。
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