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welcome to CLUB『ISK』へ  作者: れいと
第一部 刻まれた未来
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第9話-1/12

スタッフになってから初めてファナーとしてISKを訪れた蒼太。


翌日も仕事は休みで、時間を持て余していた。


午前9時、いつもならアレテイアに向かって業務をこなしている時間帯だ。


「なんか、休みだと急にやることが無くなってしまうな…部屋でも片付けるか…」


ISKに勤めてから生活感が減った部屋に掃除機をかけ、洗濯機を回す。


部屋にいる時間は少なくなったが、毎日が充実している感じはひしひしと感じていた。


ISKでの仕事で備品の補充等していた為か、部屋に置いている常備品を確認してしまう癖がいつの間にかついてしまっていた。


洗濯機が止まり、ベランダにそれらを干している時にプライベート用のスマホの通知音が鳴った。


VINEからのメッセージ、ロックはかけているがどんなメッセージが届いたかは画面を見れば確認することが出来た。


「ん?陽奏からか」


*元気しているか?あれから…


と表示されている部分をタップし、ロックを解除すると続きのメッセージが表示される。


*元気しているか?あれから少しはシフトが混乱したが、それなりお前がいなくなっても回ってるよ。また今度話をしような


「あぁ、そういえば埋め合わせの件進めてなかったな。今日あいつ空いてるかな?」


蒼太は独り言を呟くとおもむろに陽奏への返事を返していた。


今の仕事が順調に言っていることや、埋め合わせを先送りにしてしまっていたこと、今日が休みであること…


何度かメッセージのラリーが続き、互いが休みであることもあり、今日の午後から二人は落ち合う事となった。






正午を迎えたころ、昨日と同様にJホールで二人は待ち合わせをしていた。


二人にとってはいつもの場所、大半の待ち合わせがここJホール時計台で交わされる。昨日、月姫と待ち合わせしていた場所とは少し離れている。


蒼太が現地に着いた頃にはすでに陽奏の姿はあった。


同じバイトの時には週に何度か顔を合わせてはいたが、蒼太がコンビニのバイトを辞めてからは初めてだ。


たかが一週間程度ではどちらも変わり映えはしないが、濃密な日々を過ごした蒼太にとっては懐かしく思えた。


「ちぃーす!おひさ」


片手をあげて、蒼太は陽奏に挨拶を交わす。


彼はスマホの画面に夢中になっていた為、その声で顔を上げ、蒼太を目視する。


「うぃっす!元気そうだな」


陽奏はスマホでプレイしていたゲームを中断し、蒼太に向かって左手を上げて見せた。


マッシュヘアにウルフカットで動きのあるの髪型、ラフな印象を受ける陽奏のファッション。


蒼太と比べて垢抜けしており、線の細く足も長くモデルと言っても通るスタイルの良さがあった。


身長もそれなりあり、蒼太と肩を並べてもその差は分からない程だ。


スマホを肩から掛けていた体にフィットしたショルダーバッグに直し、蒼太へと歩み寄る。


「何日も経ってないしな、でもお前も肌艶良さそうじゃん」


ペチッと右手で蒼太の頬に触れ、ニカッと笑顔を浮かべる陽奏。


「良い職場環境だからな」


誇らしげに蒼太はあえて胸を逸らすように言い返す。


現に彼にとっては夢のような世界だ。


「なになに?気になるなぁ、そんなにいいとこに就職できたのか?」


陽奏もコンビニが天職とは思っていない。


いわば夢追い人として、夢をかなえるための最低限の生活費を稼ぐために今のバイトに落ち着いている。


二人はどこにいくとも決めず、近くにある花壇のふちに腰を下ろした。


「俺にしてみれば天国」


「どんなところよ」


陽奏は足を組み、その上に肘を置き頬杖を付き蒼太を見つめた。


「一言でいえばショーパブっていうの?ステージがあって女の子が踊ったり歌ったり」


具体的なイメージを浮かびやすくするために蒼太は身振り手振りを交えながら、陽奏に伝えた。


楽しそうに解説をする彼を見て陽奏もうっすらと笑みを浮かべる。


「いいじゃん、今度連れてけよ」


陽奏は自他共に認める無類の女好きで知られていた。


この手の話しはすぐに食いついてくると蒼太も予想していた。


現に彼女を連れてデートついでにバイト先へ現れたことも一度や二度ではなかった。


短期間で相手が変わってしまうのは否めないが、蒼太はそこに関して深く言及しなかった。


「結構するぞ?」


「いくらぐらい」


「下手すりゃ一か月のバイト代が飛ぶぐらい」


蒼太は陽奏から目線を逸らし、空を見上げるように呟いた。


同じバイト先に居たため、ある程度の収入は把握できている。


若干蒼太の方がシフトの関係で収入が高いと言っても二人の収入差はどんぐりの背比べ程度でしかない。


「それは勘弁、社員割で俺もなんとかならない?」


簡単に引き下がらない陽奏に蒼太は苦笑いを浮かべながら答えた。


「今のは言い過ぎたけど節度をわきまえて遊ぶならそれなりで大丈夫だよ」


頻繁に通うなら別だが、月に一度や二度程度なら蒼太の小遣いでも充分遊べる程度の出費だ。


まだ経験のしたことのないプロローグやアフターがどれほどなのかは未だに蒼太も分かっていないが…


「じゃあ蒼太のおごりで行こうぜ、それでたくさんある借りをチャラでいいよ」


日向はそう言って蒼太の肩に手を廻し、自身の方へと引き寄せた。


「少し考えさせてくれ...」


そう言われると言い返すネタが無くなってしまう蒼太。


沈黙してしまった彼に陽奏は違う話題を振ることにする。


「ところで彼女は?」


聞かれて蒼太は先日の出来事を思い返していた。


「彼女?あぁ、そうそうできるもんじゃないって」


蒼太は2日前にふられたばかりで、その傷も癒えたとはまだ言えない。


それがこともあろうか職場全体に知れ渡り、一人肩身の狭い思いをしている現状。


「そっか、俺もこの前別れたからさ…絶賛募集中ってとこ」


と言い返す陽奏の顔は沈んでいない。


何度か陽奏から失恋話を聞いたことはあるが、全くと言って堪えていない様子を見ると陽奏の心臓は強いと思えた。


「俺はこの前告ったら振られちゃってさ…」


「チャレンジャーじゃん!どんな相手?さてはお店の…」


蒼太の告白にすぐさま食いつく陽奏。


色恋沙汰は何よりのご馳走のようだ。


「うん、早くも玉砕しました」


「ご愁傷様です」


俯き呟く蒼太に、陽奏は合掌しながら目を瞑り首を垂れる。


「昼、何食べる?」


深堀りされる前に蒼太は話題をすり替えようと間髪入れず陽奏に問いかける。


「牛丼で」


「オーケイ」


低価格で腹持ちの良いチェーン店がJホールにはあった。



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