第8話-6/10
受け身だった彼の右手が自身の意図しない動きを始めていた。
理性を失ったわけではなく何者かによる圧力がかかり、その手がシノの大きく開いた胸元から服の中に入れられた。
「ちょっ、そ、それはっ!」
直接手のひらに伝わる彼女の胸の感触。
「あらー、アクシデント発生だわー、わざとじゃないものー」
確かに蒼太は自分の意志ではなく、彼女の誘導、厳密にいえば彼女の髪によって自由を奪われた手が行った行為。
しかし服の中に入ってからは手も指も自由に動かせることを蒼太は悟った。
据え膳食わぬは男の恥と言うが、このハプニングを利用しない手はなく、欲望に任せて彼女の胸を揉みしだくのだった。
「ほらぁ、もっと触ってぇ、あたし…おかしくなっちゃぅ」
次に男の左手も右手同様彼女に操られるがまま、めくれたワンピースの裾からショーツの中へいざなわれ、そのままダイレクトに臀部の肉を鷲掴みにする。
こうなればすることは決まっている。
「そこぉ…おじょうずぅ…もっとつよくぅ…」
椅子に座った状態ではあるが、キスを続けながら右手はシノの胸を、左手はお尻を心行くまで堪能していた。
時間の経過を忘れるほど肉欲に溺れる蒼太。
彼の身体はさらなる欲求を求めそれを自ら体現していた。
「やばいぐらいガチガチになってるよ?苦しくない?」
両足の愛撫が終わったグミが彼の股間をズボンの上から撫ぜ上げる。
そこはズボンの上からでも分かるぐらいくっきりと堅く太いなにかが内側から盛り上がりを見せているのが分かった。
「んぶっ!んほほへぇ」
シノの唇が蒼太の唇を塞ぎ、彼に言葉をしゃべらせなかった。
「だめよぉ、キスちゅぅにことばをはっしたらぁ」
シノが口を離し、彼の唇に人差し指をあてがった。
静寂を求める時のポーズを蒼太にして見せる。
「おねぇさんがまちがってしたかんじゃうかもぉ」
にんまりとした不敵な笑みでくすりとシノは喉を鳴らして笑い、再び蒼太に唇を重ねた。
「ほひ…」
短く分かったと了解の意志を言葉にならない声で彼は伝えていた。
程なくしてシノのブッチから聞きなれた電子音が鳴り始める。
ピピピピピ…
チケットの利用時間終了を注げる合図だ。
「はってはふ(なってます)」
シノは口づけを続けたまま、ブッチを見ずに適当にタップしてその警告を止めた。
「あともう一分…」
僅かに空いた隙間から短く一言告げると、彼女は蒼太の舌に自ら舌を絡めていった。
それとほぼ同時に蒼太の窮屈そうにしていた部位が解放される。
「ふごっ!」
口や手足ではない、蒼太の蒼太自身がズボンのボタンが外れ、ジッパーがずらされ、外部へと下着越しにさらけ出された。
それを行ってたのはパターンBで下半身を担当していたグミの仕業だった。
「すご、口に涎が溢れて…我慢できないから食べちゃお」
どうなっているのか状況を見て取ることはできなかったが明らかにグミが過剰なサービスを行おうとしているのが分かった。
とは言え今の蒼太に抗う術は残っていない。
「グミちゃん、ステイ!」
あわやパンツをずらしてそのものを咥え込もうとたくらんでいたグミの動きが止まる。
「うっ…」
口腔に溜まった涎を口の端に垂らしながらグミは時間止まってしまったようにその動きを止めた。
この二人の関係性からしてシノの命令にはグミは絶対服従を誓っているのではないかと勘繰ってしまう。
「行き過ぎたサービスはだめよねー」
自分のことを棚に上げながらシノは蒼太に同意を求めた。
「も、もうオーバーランし過ぎてまふ」
蒼太もまたショート気味の頭で選択を間違えないようにと言葉を発した。
その時に再び聞き馴染みのある電子音がシノのブッチからけたたましく鳴り響いた。
一度目より音量も大きく、ピッチも早く、より緊迫感を与える警告音。
今度はシノもしっかりとブッチのディスプレイを見て解除をタップして警告を止めた。
「あらあらー、時間もオーバーランしちゃったー」
悪びれることなくシノは後ろ髪を一度掻き上げ身体を大きく伸ばし、蒼太の上から退いた。
まだ手のひらに残っている彼女の胸の感触を感じながら張り出された胸を眺めていた。
「つい調子乗っちゃった、ごめんね、そーくん」
ポリポリと赤髪をかきながらグミも小さく頭を下げ、蒼太に詫びを入れる。
途端に感じる周囲からの視線。
蒼太はバツが悪そうに肩をすくめると自身の衣服の乱れを直しながら二人に告げた。
「やばいですよ…他のファナーさんたちもこっち見てますし」
「いーのよー、宣伝効果抜群だからー」
シノも同様に着衣の乱れを整えながら、平然といつもの雰囲気で優しく笑みを浮かべた。
彼女にしてみれば今回が特別なのではなく、いつもこの調子なのかもしれない。
「そうそう、この後指名が沢山入っちゃうのが大変だけどね」
相方も慣れている調子で再び蒼太の右隣の席に腰を下ろし、今度は椅子を彼の真横にずらし距離を縮めて来る。
シノは一度スマホを見やると今の宣伝効果のおかげで指名が2件続けて入ってしまったようで、次に行くべきテーブルを見やった。
「プレート渡しておくねー、それとー…つーちゃんには告げ口しておくからー」
シノは改めて蒼太に軽く口づけをすると名残惜しそうに首筋を人差し指でなぞって手にしたプレートを彼に手渡した。
彼女は去り際にツバキへの告発を約束しつつ、残り香を漂わせ蒼太のテーブルを離れていった。
「えぇー!それは止めて」
「そーくんがまた指名してくれるなら考えるわー」
悲痛な蒼太の叫びがかろうじてシノの耳に届き、彼女もまた引き換え条件をだしてさよならと手を振った。
前途多難な状況にうなだれる蒼太。
彼の肩にぽんぽんと元気づけるようにグミがフォローを入れてくれる。
「どんまい!ボクがついてるって!」
グミは少年のような笑顔で蒼太に笑って見せた。
以前から感じていたことだが、彼女は肌の色が若干悪いように見えてしまう。
白いを通り越して青紫の印象、まるで体の中に流れている血液が全て静脈ではないかと思ってしまうぐらい肌の色が青かった。
「そーくんが嫌じゃなければ指名が入るまで隣にいるよ?」
シノとグミはいつも一緒にいる印象を受けていたが、ここでは単独で行動していることが分かった。
さっきもシノを読んだ後に彼女がグミを呼びつけたことを思えば、情事が万事一緒に居るわけではないだろう。
「えっと…グミちゃん?はまともな方だよね?」
聞き方が悪かったかもしれないが、肌の色が悪い以外彼女からは特段何かを感じることはない。
ツバキのように羽根が生えているわけでもないし、ネネのように体が半透明でもなかった。
ごく普通の女子に見えるがシノと共に行動しているからには彼女も異住人だと言っているようなものだ。
「ボク?うん、いたってまともだよ?」
あっけらかんとした口調でグミは言葉を返す。
「じゃあこの手は何かな?」
言いながら蒼太はグミの手を掴んだ。
彼女の手が触っているのはつい先ほど口にしようとしてシノに止められた蒼太の股間のエネルギッシュな男性シンボルだった。
「あっ、ごめん、ついつい物惜しくて」
手のひらで反り返った部分を何度も往復していたそれを辞めるように蒼太は彼女に訴えた。
「俺も我慢できなくなるから…」
おかげで収まるどころか今も尚元気に健康であることを主張し続けている。
蒼太の意志から独立した生殖器官が本来の目的を果たしたくてうずうずしているのが感じ取れる。
「チェッ、しーちゃんがあそこで止めてなければなぁ」
口を尖らせて頬を膨らますグミに蒼太は指差し忠告を与えた。
「ルール的にダメでしょ!」
「バレなきゃ♪」
チロリと舌を出しつつ、グミは蒼太に言い返す。
「俺一応スタッフなんだけど?」
「そうだっけ?内緒にしてくれたら」
「こらこら、とんだ困ったちゃんだ」
シノもシノだが、グミもグミで一癖ある人物だと心の中のメモ帳に書き留める蒼太だった。
「え?オシオキしちゃう?」
グミは潤んだ瞳で蒼太を見つめ返していた。
彼女の性格は普通だとしても性癖はシノが言う様に極度のマゾヒストであり、加虐心を煽る素振りを心得ている。
「な、なにその目…」
「ボク、そーくんにあんなことや、こんなことされちゃうんだ♡」
青紫色の顔色に微かに赤みが混ざる。




