第8話-5/10
一番の推しはツバキだったが、望まぬ形でここのキャストのほとんどが知っている事実だ。
アプリには敢えて登録せず、いまだ彼のアプリ内ではマイファナーは0で通していた。
シノは一瞬大きく目を見開いたが、いつものサイズにそれが戻るとまたしても意地悪そうに頬を摺り寄せて彼を問い詰めることにした。
「えー、マイファナーはじゃなくてー、どのきょにゅーちゃんが好きなのー?」
彼女の胸が蒼太の胸に押し付けられ形がひしゃげてしまう。
それだけで彼のきかん坊が反応してしまっている事実は隠しきれるものではなかった。
にじり寄るシノと目が合い彼女の魅力が蒼太の心に伝わってくる。
感覚的なものではなく、それが彼女のスキルだということに男は感じることが出来た。
数日間異住人と密接に関わってきた彼だから感じる独特の雰囲気。
一般の人なら感じることさえできない巧みな演出の中に組み込まれた技法。
しかしながらそれが彼女のスキルと分かったところでそれに抗う方法を知っているわけではない蒼太はまんまとその術中に落ちていくのだった。
「あたしもつーちゃんには負けてないけどー」
彼女がツバキを引き合いに出してくる。
ツバキの胸に直接触れた蒼太だからわかる二人のサイズの違い…明らかにシノの方がふくよかさでは優っていると肌越しに感じていた。
首に絡めた腕がさらに二人の距離を縮めていく。
唇が重なりそうな数ミリ程度の距離を保ちながら彼女は言葉にならない甘い吐息を蒼太に纏わせていた。
蒼太の欲望を押しとどめている理性が崩壊しそうになったところに
「呼んだ?」
と、明るい声が二人の耳に届いた。
寸でのところで現れたのは先ほど呼び出しを掛けたグミだった。
肩にかかるぐらいの赤色の髪に、黒のタンクトップ、ホットパンツと服装だけ見ればボーイッシュの言葉が当てはまる彼女。
シノとは相対的に胸もボーイッシュな大きさしかないのが彼女の特徴ともいえた。
「呼んだ、呼んだー、座ってー」
チャンスを邪魔されたことを怒る様子もなくシノはグミに蒼太の隣に座るように促した。
蒼太の左にはシノが密着しており、その反対側の席に腰を下ろすグミ。
彼女はシノと違って蒼太とは適切な距離を取っている。
「今ねーそーくんを問い詰めてるところー、ねー♡」
真ん丸な目でウインクしながらシノはグミに状況を伝えた。
今の状況を見てグミは蒼太の右耳に手を当てて内緒話のように小声で彼に忠告を届けた。
「あ、そーくん。ボクらの中で一番怖いのはしーちゃんだからね、りちりちは本当は優しいんだよ」
周りの喧騒もありさすがにシノの耳には届かないと思われたが、その挙動にあらかた良い事ではないと察したようだ。
「もーさっそくタレコミー?グミちゃんには後でたっぷりオシオキが必要ねー」
「そ、そんなじゃなくて」
目を細めるシノに慌ててグミは両手を振って不可抗力とばかりに全力で否定の表現していた。
シノの悪口を言ったのではなくリチのフォローをしただけだが、聞こえ方によっては間違ってとらえられても仕方ないだろう。
「ねーねー、ホントのところどーなのー?」
サキのように絡めた腕から彼を逃さないよう、自身の身体を密着させて蒼太の行動を束縛しながら再びシノが問い詰めた。
彼の行動を阻害していたのは何もシノの肉体だけではなかった。
蒼太は気が付いていないが手足にはシノの長い髪が絡まり、その自由を奪っていた。
顔の角度も固定されていたのは彼女の手によってではなく、自在に操作できる髪の毛によるものだった。
彼女が得意とするスキルは魅了ではなくこちらの方が群を抜いて強力なものと言えた。
シノは更に強力なスキルも隠し持っているがこの場で使う必要のないものだった。
「え?もうチケットタイム始まってる?」
ドギマギしながら上ずった声で蒼太が問いかけた。
話題を逸らすにも時には大事な交渉テクニックだ。
「ううんー、まだー、今はあたしの尋問タイムよー」
蒼太の考えを一蹴するとシノは彼に逃げ道がないことを自覚するよう目を細めて答えた。
すでに唇と唇が接触してしまいそうな距離。
1mmとて隙間が無く時折擦れる肌感に首をひねって回避しようとするが今の蒼太にはそれも叶わない。
「し、しのさん、ちょっとタンマ、タイムで!」
思わず口走った言葉と共に唾が飛び、彼女の口の周りに付着する。
もうすでに何度も唇同士が触れ合っていたがシノはお構いなく彼への尋問を続けるのだった。
「呼び間違いは減点1よー」
「しー、しーちゃんストップ!これヤバイって!」
ぞくぞくとした寒気が蒼太の背筋を伝う。
恐怖ではなく、シノの髪がまるで鳥の羽のように肌を撫ぜ、体中に鳥肌が立つのを感じていた。
くすぐったさとそれを凌駕するほどの寒気、そしてわずかな快感が入り交じった状態。
「誰推しか言わないと辞めれないのよねー」
先程グミが囁きかけてきた言葉の意味を蒼太は身をもって知ることになっていた。
蜘蛛の巣にかかった昆虫の気分を味わいながら半ば叫ぶように彼女の望む答えを口走った。
「わかぁ、しーちゃん!しーちゃんで!」
もはや傍から見ればキスをしているようにしか見えない二人の今の状況。
シノは満足いく彼の回答に喉を鳴らし笑顔を浮かべて見せた。
「あら、嬉しーわー、でも無理矢理言わせたみたいになってないー?」
近接すぎて今の蒼太にはその顔もじっくり見ることが出来なかったが…
「ないです、多分…」
テンションの低い声で彼女を肯定する蒼太。
「あんまり無茶するとリピートしてくれないよ?」
そんな蒼太を見かねて隣で成り行きを見守っていたグミが一言シノに忠告を投げかける。
彼女は呼ばれてここに来たものの立ち入る隙が見当たらなかった為テーブルに肘をついて様子を伺っているようだ。
シノは一度グミの方を見やり、右目にかかっている前髪をかき上げて蒼太に向き直った。
一瞬彼女の右目が見えたような気もしたが、その目は閉じられていたのか蒼太は見つめられていたのか認知することはできなかった。
だが彼女の秘密がそこにも一つあるのではないかと彼の第六感が働いた。
「それもそうねー、チケット使っちゃうー?」
確認するように尋ねるシノ。
「充分満足してしまったけど…えっと、二人だと2x2で4枚かな?」
たまたま先ほどプレートを確認する際に財布の中に前回のチケットが1枚余っていた為、残りの分と合わせて丁度4枚手元にあることを覚えていた蒼太はシノに確認する。
それにはシノの代わりに隣に座っているグミが応えた。
「ううん、ボクサポートにきただけだから、しーちゃんに使って2枚分だね」
シノは両手で受け皿を作って、彼からチケットを受け取る準備をしていた。
チケットの束から2枚切り離して蒼太はシノの両手の上に置いた。
彼女はそれをポケットにしまうと、左手のブッチを操作してイチコと同じようにタイマーの操作を行った。
「ではー5分のタイマー始めますねー、グミちゃんはパターンBで」
「あいよっ」
このテーブルに来てから待ちぼうけを受けていたグミも二言返事で席を立ちあがると蒼太の前に移動した。
そのまま彼女は蒼太の足元に腰を下ろし、右足を持ち上げようとする。
「なに、パターンBって?」
突然の出来事に驚く蒼太にシノは耳元で
「聞いちゃうー?でもきぎょー秘密なのよねー」
と囁き、耳たぶをはむっと加えてしまった。
「じゃ、失礼して…」
前から聞こえてくるグミの声。
グミは蒼太の靴を脱がすと、さらに靴下に手をかけそれをも脱がしてしまった。
床の上にハンカチを敷き、その上に裸足になった足を置き、自らは四つん這いになって親指を口に含むのだった。
「え?そんなこと…」
足の指を舐められるどころか咥えられるなど経験したことが無い蒼太は目を真ん丸にして驚いて見せた。
シノの繊細な指が蒼太の頬をふわりと包み込む。
「グミちゃんは調教済みドMだからー、むしろ喜んでるのよねー、なじられて喜ぶ変態さんなのー」
くすりと笑いを一つ零して、蒼太と口づけを交わした。
積極的なシノの口づけは蒼太の口腔内を舌が蹂躙し、蛇のように舌と舌が絡み合い、鼻腔に甘い匂いが漂ってくる。
蕩けるという表現はこういう事なのだと蒼太は全身が溶け出すような甘美な思いに身を委ねていた。
足元と顔に二人から同時に供給される快感に男は酔いしれていた。
受け身の蒼太にシノは自身の胸を押しあてるようにして彼に催促をする。
「ほら、こっちにしゅーちゅーしてー」
胸元から見える谷間に蒼太は顔をうずめていた。
マシュマロの様な軟らかさに、満たされ包まれる安堵感にここがISKだということを忘れてしまいそうになっていた。
彼が息苦しさを感じるまでシノの胸によるサービスを受けつつ、朦朧とした意識でうわごとのようにつぶやいた。
「これって本当にチケット2枚のサービス?」
グミは右足の指を全て丹念に愛撫した後、足の甲、くるぶしとしゃぶり終え、次いで左足の靴を脱がし、同じように口による愛撫を行っていた。
上半身ではシノの過剰すぎるスキンシップに身を委ねる蒼太。




