第8話-3/10
ここの入場料も夜勤を1日すれば払える金額なのでそこまで高額とは思っていなかった。
蒼太の意地悪そうな言い方にイチコはぷくっと頬を膨らませてステージの方を睨んだ。
まさかこんなところで勝手に評判を落とされているとはステージ上で陽気にマイクを握っている練は夢にも思わないだろう。
「えーひどいわん!前はアフターもした仲なのに…ぼくとは遊びだったわん?」
「冗談、冗談だよ。練さんのことは練さんしか分からないから」
ポンとイチコの頭の上に手を乗っけながら蒼太はケタケタと笑った。
「今度聞いてみるわん」
フンスと鼻息を荒くして誓いを立てるイチコに蒼太は頭に乗せた手でくしゃくしゃと彼女の髪をかき乱した。
その中からぴょこんと尖った耳が立ち上がってくる。
「くれぐれも俺がなにか言ってたってのは無しで…」
みれば床の上にあった尻尾もスカートを持ち上げるように元気よく跳ね上がり、左右にピコピコと揺れていた。
よっぽど嬉しいのだろうか、彼女は顔以外にも全身で喜びを表現してしまう性質をもっているようだと認識する蒼太。
「ほい、チケット2枚」
5枚つづりになっている束から2枚のチケットをもぎってイチコに手渡した。
ここのルールを熟知してので詳しい説明も必要なかった。
「ホントにいいわん?」
少し愚痴ってしまったことで気を使わせてしまったとイチコは申し訳なく思いながら確認をする。
「何度も言わせるなって、俺もここには遊びに来たんだから」
彼女が思うほど蒼太も気は使っていなかった。
自身が楽しみたいからここに来たのであって、自分の意志で遊びを選択している。
イチコがねだったわけでも、同情した気持ちもなくただ娯楽として彼女と楽しみたいと思ったからチケットを使ったに過ぎない。
「毎度あり~だわん、ぼくたっぷりサービスするわん!」
イチコは蒼太からチケットを受け取り、それをリストバンドに入れると口の周りを舌でぺろりと一周嘗め回して右手でガッツポーズを作って見せた。
やる気が空回りしがちだが、今日の彼女はいつも以上に鼻息荒く頑張るつもりでいるようだった。
蒼太が座る椅子をテーブルが邪魔にならないように横向きにさせ、対面で向き合う様に彼の太ももの上に腰を下ろした。
「重たくないわん?」
もちろん全体重をかけてるわけではなく、自身も両足は床につき男性への負担を少なくするように心がけていた。
「大丈夫、どんなことしてくれる?」
チケット1枚で3分間服の上からタッチすることができ、2枚で5分間服の上からタッチとキスが解禁になる。
前回ファナーとして来た時はエルナにそれ以上のサービスを受け、ツバキには同意?の元で直接胸に触ったりしていた。
ツバキに対しては過剰なサービスだったためエルナに後で大目玉を食らうことになったが、基本ファナーが暴走しなければサービスの範疇はキャストに一任されていた。
ホール内を見れば羨ましいと思える行為が行われていたりするのは目にしている。
例えば胸を顔に押し付けたり、抱き合うように見えるがキャストからの過剰なボディタッチは見て見ぬふりをされているのがここのルールだった。
「お得意は全身リップわん…でもここじゃ上半身だけだわん」
今一度イチコは自身の口の周りを長い舌でぺろりと一周嘗め回した。
「か…ムーンが怒るから?」
言葉の端々にみられる言葉から彼女の顔が思い浮かぶ。
その彼女の顔が「だめです」と怒りながら叱っている姿へと変貌する。
「今日はむーんさん休みだわん、けどお約束事だから守らないとね。どうしてもなら個室になっちゃうわん」
イチコの言葉にエントランスであった月姫のこと思い出す。
確かに今日は彼女は非番と言っていたが、なんだかんだ結局はここに足を運んでいたことを思えば仕事熱心なのか心配性なのか…
それに昨日経験した個室では基本何をしてもOKな雰囲気はあった。
ベッドにソファ、時間は10分と短いが本番行為だってお咎めはないのかもしれない。
そんな場所なら全身リップだけで済むはずがないと心の中で蒼太は思っていた。
「あ~個室禁止されてるから…でもまずはキスからしたいな」
「ぼくもだわん、タイマーセットするわん」
蒼太の申し出に相槌を打つと、イチコはブッチを操作してタイマーの準備を始めた。
きっかり5分のタイマーがタップと共に作動し始める。
もしタイマーを忘れたら…なんて思ったりもしたが店の売り上げが減るようなことを考えるのは無駄だと思った。
イチコは軽い口づけを交わし、唇で唇を撫ぜるリップトゥリップで蒼太とのキスを愉しんだ。
流れは彼女に任せ、蒼太は受け身に徹していた。
「はむ…はぅ…」
熱っぽい溜息を吐き出し、イチコは蒼太の顔を唇と舌を使って舐め始めた。
くすぐったさと気持ち良さは表裏一体で、絶妙なバランスで彼女は蒼太の顔中を舐め回していった。
それはやがてあごのラインから首を辿り、胸元へと滑り落ちていく。
その様を眺めていた蒼太だったが自然とその手が彼女の胸元へと延びていた。
ルールで許される範疇である服の上からのボディタッチ。
胸を掴み、程よい大きさのそれをまさぐった。
手の感触からして服の下には下着は着けておらず、布越しではあるものの軟らかい感触が手のひらに伝わってくる。
「もっと…強くしても…いいわん」
ペロペロと舐め回しながらイチコは呟いた。
「強めにされるの…好きだ…わん」
上目遣いで見上げる彼女の瞳が潤んでいるのが分かった。
蒼太は自分の性癖は確固としていない。
性癖うんぬんの前に彼は女性経験がないのだから致し方無いだろう。
現実ではないにしろ妄想の中では自負することではないが正常だと思っている。
いや、そう思いたいと思っていた。
が、彼女の目を見た時に自身の中で何か感じるものがあった。
手探りで胸の先にあるしこりを探りあてると、それを二本の指でつまむように捏ねた。
「服の上からでも分かるよ、ここだよね?」
「きゅぅん!そこ…ぼくよわいかぁら…」
身をよじって反応を示すイチコ。
自身が言ったようにそこは彼女のウィークポイントで愛撫どころではなくなってしまっていた。
感じる彼女を眺めるのも悪くはないが、蒼太としてはもう少し彼女の奉仕を受けたいと思ってしまい、責め手を休めることにした。
おかげでイチコは冷静さを取り戻し、一度前髪を直した後蒼太の服の裾に手をかけた。
「次はそうさんの…」
ゆっくりと服をたくし上げ、蒼太の脱衣を行っていく。
露わになった上半身のおなかの部分から徐々に舐めあげ、胸のあたりへと彼女のお得意の舌と唇による愛撫が施されていく。
先程蒼太が責めた彼女の乳首を今度はイチコが蒼太のそれを舐め、快感を提供していく。
彼女の舌と唇の愛撫はくすぐったくも気持ちいい感覚を絶妙に責めて来る。
思わず口かららしくない声を上げてしまいそうになる蒼太だったが、快楽に負けないよう必死にそれだけは我慢していた。
遊ぶ彼の手をイチコは捕まえると、その手を自ら首の所から直に肌に触れるように服の中に忍び込ませた。
「直接はNGじゃないの?」
服の中に入れた手から軟らかい胸の感触が伝わってくる。
蒼太の手は思わずそれと掴み、指を動かしてしまっていた。
本能的動作に蒼太は抗わず、お餅のような柔らかさを堪能してしまっていた。
「キャストからは大丈夫わん…そうさん、さわってて…」
彼の手はやがて先端のしこりを見つけ、先ほどとは違ってダイレクトに彼女の乳頭を優しく愛でる。
イチコは愛撫を続けながらその手はいつの間にか男の股間の部分へと延びていた。
膨らみをみせるズボンの上から彼女の手が形を確認するように撫で上げられた。
「そうさんのここも反応してるわん」
軽くその手が上下に動く。
ズボンの上とは言え蒼太は思わず腰が動きそうになる快感に身を委ねそうになっていた。
チケットを3枚使えば直に肌に触れることも解禁されるがあえて蒼太がそれをしなかったのは理性を失わないためだった。
「うぁ…いいよ、すごく…イチコ…」
ついに我慢していた声が蒼太の口から洩れる。
一度決壊してしまった理性の壁は、欲望を押しとどめることは出来なくなってしまっていた。
イチコもまたピンと立った尻尾が力強く左右に振られていた。
彼女にとって尻尾の反応は意志とは無関係に感情に従って動いてしまう部位でもあった。
高まる興奮にイチコは蒼太に要求していた。
「もっとぉ、もっとそこ…触って欲しいわん…」
彼の手がイチコの乳首を抓り、強い感覚を彼女に与えてしまっていた。
イチコにとってそれは痛みではなく快感に脳内で変換されてしまう。
かすかにあえぐ蒼太の声に、イチコも共鳴するように甘い吐息交じりの声を漏らし始めていた。
「ふわっ…!きゅふん!はふはふ…だめ…わ、ん」
蒼太を愛撫するどころではなくなってしまいそうになりながらもイチコは自分の指令を果たすために彼を愛でた。
身を捩りながらも唇は彼の身体から離れない。




