第6話-11/14
初めまして、【れいと】と申します。
初投稿ですので色々不手際があると思いますが応援お願いいたします。
やがてホールの扉が開きキャストが一人、練を迎えにやってきてくれた。
新しいファナーが入店すると月姫がアプリを使ってキャストに呼びかけを行って
いる。
早い者勝ちだが、フリーのキャストがすぐさまチェックし、自身が迎えに行く
ことを連絡すると呼び出しが止まる設定になっている。
時折2人、3人と被ることはあるがそれはファナーにとっても喜ばしい事だろう。
練のお迎えに来たのは残念ながら一人のキャストだった。
褐色の肌、異国情緒あふれる中東の雰囲気を持ったキャストだ。
「ナマステ、練サン。今日はファナー?」
独特のイントネーションでキャストは軽く挨拶をする。
ファナーとして来ただけあって、他のファナーと同じように練もキャストに
対してはそれ相応にふるまっていた。
「ちす、朱美っち。案内してくれる?」
彼は腕を差し出すと、シュミと呼ばれたキャストはその腕を胸元に引き寄せ
抱きしめる。
まるで恋人同士のように体を寄せ合うと、シュミは笑顔満面で練の頬の口づけ
をした。
「アッチャ、任して。BOX席は空いテルよ」
耳なじみのない異国の言葉を発するシュミだが、雰囲気的にそれがスキルや
魔法を発動するときの呪文とはまた違っていることに蒼太は肌で感じていた。
異世界ではなく文字通り異国、英語やフランス語の類だと思うがそれがどこの
国の言葉か彼には分からない。
「ごめん、BOXは後で沙羅っちで予約入れてるわ」
「コーイー・バート・ナヒーン、次の機会にでもよろシクね」
まったく残念がる風でもなくシュミはもう一度練の頬にキスを落し、彼をホール
へと案内していく。
「OKOK。じゃあ、お2人さんも頑張ってなー」
エントランスから姿を消す前に練は再び蒼太と月姫に向き直り軽く手を挙げて
別れの挨拶を告げた。
本日もアフターのイベントが終わり、最後のファナーを見送り、お店には片づけ
をするキャストとスタッフだけになっていた。
明るい店内も片づけが終わると徐々に薄暗くなり、沢山いたキャスト達もアレテ
イアに戻って自室で休むことになる。
「ようやく終業だね、今晩はどうするの?」
丸半日以上勤めを終えた蒼太はそろそろ休みたいと身体が悲鳴を上げているのを
感じ取っていた。
明日も朝早くからアレテイアに向かわなければならない。
「最後まで付き合ってもらってごめんなさい」
「いや、それは全然大丈夫だけど。…ほら、これがあるからさ」
忌々しい左手のブッチを月姫に見せつけるように提示した。
画面は相変わらず青一面で安全圏に居ることを示している。
「4階のアフタールームが空いてるはずなのでそこで…」
「一緒に寝るってこと?」
月姫の申し出に一瞬言葉が裏返りながら蒼太は尋ねた。
「そうなりますね、嫌…ですか?」
少し申し訳なさそうに月姫が言う。
時折見せる気弱な態度が蒼太には放っておけない心象を与えてしまう。
「別に俺は構わないけど月姫に悪いと思って」
一つの部屋で過ごすのを避けたい蒼太は遠回しに彼女に断る理由を与えてみる。
「私は…そうちゃんなら…」
皆まで言わなかったが、月姫に決定権を譲ったのが野暮だったと蒼太は心の中で
呟いた。
ホールの奥のエレベーターを使い普段は足の踏み入れることのない4階へと
訪れていた。
普段アフタールームのチェックでも使われない4階は含まれない。
未だかつて一度も蒼太が足を踏み入れたことのない場所。
もちろん普段から一人で仕事を任されているのだから自由に歩き回ることはでき
たが、不用意に必要のないところまで探索するのは忍びなく気が進まなかった。
とは言え、つくりも間取りも感覚的には似ている3階と4階のフロアー。
この回にも4つの部屋が用意されているようだ。
最大8部屋あるということはアフターのイベントももっと増やせるのでは
ないかと考えながら蒼太は月姫が示す部屋へと向かった。
月姫が足を止めた部屋、そこの扉がブッチがキーとなり解錠される。
扉を開けると他の部屋とは少し雰囲気が違う感じに蒼太の足が止まった。
赤と黒を基調とした部屋。
しかもその色合いはビビットで少し強烈なインパクトを受けてしまう。
立ち止まる蒼太の横をすり抜け月姫は部屋に足を踏み入れるが、彼が動かない
ことには勝手に奥へ進むことはできなかった。
アプリの戒め、だがそのアプリによって今2人が一緒にいる原因は作り出され
たのである。
「この部屋って…」
月姫は蒼太の手を引っ張り、部屋に引き込むと自動的に扉が閉まり、
施錠される。
蒼太が衝撃を受けるのも致し方なしと月姫は4階を使用しない原因が部屋の
コンセプトにあると言いたげだった。
「色んな意味で4階は普段は使われてない部屋で…
この部屋はまだましな方だと思ってます」
「これって?磔台?」
吸い込まれるように蒼太は部屋の壁に取り付けられているXの字のオブジェクト
へと足を進めた。
先端には枷となる鎖と鍵が取り付けられている。
と同時に今日何度も耳にした電子警告音が部屋に響いた。
慌てて駆け寄る2人は勢いあまって抱き合ってしまう。
「急に離れないで下さい!」
「ごめん、ごめん。って拷問部屋みたいな感じだね」
磔台を目にしただけでなく部屋の中央には木製の馬が鎮座していた。
その背は三角になっており、乗馬する遊具にしては少し危ないのではないかと
思ってしまう。
もちろん遊具と呼ぶにはおこがましいが、ある意味では遊具と呼んでも間違いは
なかった。
「悪趣味…ですよね」
月姫は直視できずにそれらから目を背けるようにして生唾を飲み下していた。
もちろんベッドもあり、睡眠をとるにはなんら問題がないとはいえる。
ガラス張りのシャワールーム、どうすれば良いのか分からない壁のものとは
また違った拘束具や緊縛するための機材が並んでいた。
言わずもがなSMと呼ばれる性癖を満たすにはこれ以上ない設備の整った部屋だ。
「やってみる?」
壁に添えつけられている鞭を弄りながら蒼太は彼女に尋ねる。
彼女の返事は軽いげんこつの一撃だった。
「バカッ!…と、とりあえずシャワーをして今日は寝ましょうか」
繋いだ手を引き月姫はシャワールームへと向かった。
大きな浴槽も透明なアクリルでつくられており、違う意味では開放感あふれる
作りとなっていた。
ご覧いただきありがとうございます。
ファンタジー世界のキャストが沢山居るキャバクラ店のお話です。
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