第1話-6/16
初めまして、【れいと】と申します。
初投稿ですので色々不手際があると思いますが応援お願いいたします。
エルナの熱量に呆けている蒼太のテーブルに
再び来客が来るまで分単位の時間は必要としなかった。
「そうちゃん、おひさ~」
右手をひらひらとさせながら金髪の女性が蒼太の前に現れた。
片方の髪をサイドポニーに仕立て、少し大人気な雰囲気を醸し出している。
生憎蒼太は人付き合いの良い方ではない。
女性の知人などわずかに数えるほどだ。
彼女の物言いからして顔見知りの様だが
蒼太の記憶に彼女の顔は存在していなかった。
「え?」
クエスチョンマークを頭の上に浮かべる蒼太。
「つれないなぁ~織姫のこと忘れちゃった?」
言いながら織姫と名乗った女性は蒼太にハグを求める。
その後頬を寄せるお決まりの挨拶。
さすがにレクチャーされずとも成り行きで織姫の挨拶に応じた。
「お、俺…この店、今日初めてだけど?」
頬を寄せた後互いの息がかかるぐらいの距離で蒼太は答える。
その言葉に織姫は唇の端をゆがめ、
バツの悪そうに頭をポリポリと掻きながら言葉をつづけた。
「あちゃ~、しくじったかぁ。
失敗失敗!ちょっとフレンドリー感だしてみたんだけど」
悪気はないようだが、これが彼女の【手の内】なのだろう。
とはいえ向こうから距離を詰めてくれるのは
彼にすれば願ったりかなったりである。
「改めてそうちゃんよろしくね!」
再び両手を広げ、織姫は再度蒼太に挨拶を求めた。
先程交わしたばかりの挨拶、ハグ➡頬同士のキスの流れで続けた。
「織姫はいたって普通の恰好してるね」
頬を寄せたまま耳元でつぶやく蒼太。
店の喧騒もかなり大きく、
この距離でなければ会話の成立が少し難しいと感じるところだ。
織姫も同様にそのままの大勢で蒼太の問いに答えた。
「私はいたって普通の人だから、
変わったキャストばかりで食傷気味になってない?」
いたって普通。それが何を意味するか理解に容易い。
「それは大丈夫だけど…でもすごく変な人ばかりでパニックにはなりそう」
本心ではそんなことは思っていないどころか
普通じゃない状態が常にあってほしいと願う蒼太。
彼女を傷つけないようにと話を合せてしまうのが彼の処世術。
逆に普通の人がキャストとしていることに驚くばかりだ。
織姫も顔立ち、スタイルで言えば申し分ないが今の
蒼太が普通の女性に食指が反応していないのが本当のところだ。
「普通の思考に戻りたくなったらいつでも私を指名してね!」
取り繕う蒼太だが、
興味がないのを悟ると織姫は早々に他のテーブルへと踵を返すのだった。
ほぼそれと同時に蒼太のテーブルに
サプライズの訪問者が文字通り真上から現れた。
ある程度店の雰囲気にも慣れ次のキャストに変わった仮装姿で
現れても驚かない心構えが出来てはいたが、
今度のキャストは蒼太の想定をはるかに上回るものだった。
喧騒にかき消されるぐらいの小さな羽音を立てながらお皿が降ってくる。
「へ?」
お皿はお盆の上に乗っており、
そのお盆は上方から糸のようなもので吊り下げられていた。
「おまたせー!スライムの甘辛煮お持ちしましたっ!」
彼女の言った通りお皿の上にはこんにゃくのような物体に
餡かけがかけられた食べ物が乗っている。
漂う匂いが満腹状態の蒼太の鼻腔をかすめた。
改めて目をこすってみるとお盆を運んできたのは
蒼太の顔ぐらいの大きさの羽根の生えた小さな女性だ。
「よ、妖精!?」
蒼太は素っ頓狂な声を上げたがいいえて妙で
その姿は童話に登場する妖精そのものだった。
彼女も他のキャスト同様小さいながらも水着を着用して業務を務めているようだ。
「そうちゃん、初めまして。配膳担当の硝子ことしーちゃんです」
他のキャスト同様にショウコも両手を広げて蒼太に近づいてくるが
ハグをするには明らかにサイズが小さすぎる。
思った通り、彼女はハグではなく彼の頬にぺたりと抱き着くと、
虫のような翅で飛んで距離を取り、蒼太に投げキッスを送った。
確かにキャストは同じサイズばかりではないことも見て取れる。
ショウコのように小さいキャストもいれば、
ノノのように特大サイズのキャストも存在していた。
投げキッスを送ったショウコはその後手を振り、
蒼太にバイバイの挨拶をすると再び上方へと飛び立っていく。
「しーちゃん、よろしくね」
「お皿が空いたらまた取りにくるからね!」
彼女の言葉が届いたかは分からないが、
改めてみる食材に蒼太は怪訝な表情を浮かべていた。
なんせスライム~というからには妙な味がしかねない。
が、しかしコンセプトを守るお店ではメニュー名を凝っている所も少なくはない。
スライムと銘打っているものの実はこんにゃくでしたというパターンも
往々にしてある、というより普通のお店ではそれしかないだろう。
蒼太は届いた料理をこんにゃくと思いつつ口に運んだが、
良い意味で彼の予想を裏切る形のものだった。
弾力というより、粘着性の高い柔らかい食べ物。
こんにゃくとは全く異なる触感でどちらかと言えば団子を
くったくたに煮込み蕩けるものの芯がある初めて食す物体であった。
ここではスライムと言われるものだろうがそのものの味はあまりなく、
出汁と餡かけに味付けがしてありそれを味わいつつ、
触感を楽しむ食べ物と認知する。
二つ、三つと口に運んでいるとまたしても蒼太の元に新たなキャストが現れた。
ご覧いただきありがとうございます。
ファンタジー世界のキャストが沢山居るキャバクラ店のお話です。
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